私はかねがね、一口で”地域の活性化を考える”と言っても実は大変大きな問題が幾つもあって、とても技術士の提言だけで解決できるものではないと考えておりました。
どんなに素晴らしい提言が出来上がったとしても、それを実行・実践・実現するためには、人々の努力だけでは解決し得ない様々な社会条件、経済条件等の改善が不可欠でしょうし、最終的には地元地域の方々の意識改革や努力に依らざるを得ない部分が余りに多いと思うからです。一人の天才がどの様に素晴らしい構想を纏めても、大多数が動かなければその構想は単なる「絵に描いた餅」にしかならない。だから、私達の研究会活動も結局は従来型の単なる提言で終わってしまうのではないか、と心配しておりました。
しかし、これまで地域活性化分科会の皆さんが見せてくれた様々な取り組みは、そんな私の心の奥底に眠っていた不安を見事に払拭してくれました。何より驚かされたのは、皆さんの行動力と持続力です。多分、皆さんも私同様(否、私以上に)、地域の活性化のためには地元の方々との接触を通して、地域内部からの意識改革が重要であると認識されていたからでしょう。驚くほどの活動力で寿都町の方々との接触を繰り返し、様々な啓蒙を与えることが出来てきたのではないかと思っています。地元の方々が悩んでいることを本当に理解するには、一度や二度の話し合いでは到底無理な話です。また、そこに住んでいる方々の苦労を知るには、実際に現地に出向いて体験してみることが不可欠と思います。しかし、寿都町では他の市町村では見られないほどの様々な情報や知識が皆さんとの接触を通して流れ、これから本当の意味で地域内部からの活性化活動が始まるのではないかと期待しております。
企業が受注業務として地域活性化の提言を纏める場合、この様に地元密着した行動を取ることは極めて希であり、一般的には地域活性化について考えるポーズを取りながら、(物理的にも精神的にも)遙か遠く離れた所から他人ごととして対応し、何処かで纏められた提言集などを受け売りした内容で報告書を纏めてしまうのが常ではないでしょうか。これが私達企業人としての限界であり、技術士の果たすべき役割の限界なのでしょうか。
私は、技術士の果たすべき役割とは何かを何時も考えながら今日まで走り続けてきました。しかし、残念ながらこれまで一度も納得した行動を取ったことはありません。常に企業人としての壁にぶつかり、自己の限界を感じながらの半生でした。技術士ならずとも、何かを成就しようと考える者は、単なるオピニオン・リーダーに終始することなく、息の長い実践行動を伴わなければなりません。行動のないところに夢の実現はありません。
行動を続けていけば、最初は傍目でみていただけの人々も何時かは行動を共にし始める時が来ると信じております。正に「継続は力なり」は格言なのです。
私の周囲にも、「技術士の社会的認知が低い」と嘆く人が多くいます。私はそういう技術士に言いたい。「社会から認知されるために、貴方は社会に何か貢献していますか?」と。技術士一人ひとりが、社会に貢献することを繰り返さない限り、社会も技術士を認知しないのではないでしょうか。何かを与えてもらいたければ自分も何かを与えなければならないのは世の常です。企業の中で出世するために、また、公共事業を受注するために必要な資格だから取得しただけの技術士資格なら、認知の低さを嘆くべきではない。
しかし、私は例え小さな貢献であろうとも、自分に出来る貢献をしようとする技術士が一人でも増えてくることを祈ってこれからも活動しようと考えております。
これまで地域活性化分科会の皆さんが行ってきた様々な活動は、そうした意味で本当に素晴らしい実践活動であると思っていますし、例え素晴らしい提言が出来上がらなくても、それを上回るだけの評価を地元から得ることが出来ると信じております。今や、寿都町では他の市町村以上に技術士というものの認知が出来たのではないでしょうか。
これから、どの様な活動・提言が為されるのか楽しみです。
また、今後は寿都町のみならず活性化で苦しんでいる他の市町村へも同様の働きかけをされることを祈念しております。
地域の方々に、真の技術士の有効性が認知されることは、将来に亘る技術士業務の発掘に繋がり、ひいては皆さんが所属する企業の経営にも必ずや良い結果を招くと信じております。
昨今の大変厳しい経済情勢の中、皆さんも1企業人として大変な状況にあると思いますが、これからも頑張って下さい。
地域産業研究会会長
船越 元