(3)   水産廃棄物について

最後に、水産廃棄物の資源循環について考えてみます。水産業は沿岸〜沖合〜遠洋と極めて広範な水域の中で活動(漁獲水揚げ)し、集められた漁獲物が漁港に集積された後、それらを加工処理した際に発生する大量の廃棄物の多くは埋立て処分され、一部が焼却処分されてきましたが、埋立て処分の場合には魚貝類に付着する海水塩分や、肉身に含まれるカドミウム・重金属などの集積によって、周辺土壌の環境汚染を引き起こす懸念があります。また、焼却処分の場合には、廃棄物中の水分の影響で、焼却炉内の燃焼温度が十分上がらないことによる有害物質ダイオキシンの発生が懸念されるほか、燃焼用化石燃料の使用によって地球温暖化の原因となると考えられているCO2が、大量に放出されることも問題とされています。このため、従来行われてきた埋立て処分や焼却処分に代わって、最近では廃棄肉身の堆肥化も一部で導入されつつありますが、堆肥の散布先となる農業側からは、含有成分に対する懸念から受け入れに難色を示す傾向が強いほか、沿岸部から農地の広がる内陸部への輸送コスト問題も残されており、抜本的な処理方法となる可能性は低いと考えられます。

これに対し、水産廃棄物中の肉身類を嫌気性発酵によりバイオガス化する資源循環システムがクローズアップされつつあります。

西欧国デンマークでは、バイオガスプラントにおいて主原料となる家畜ふん尿に、水産廃棄物を混入する事例が多く見られます。乳牛のふん尿を単独で嫌気性発酵させた場合に比べて、水産廃棄物を混入した場合は5〜20倍のメタンガスが発生することを利用したものですが、塩分濃度が高すぎる場合には発酵槽内のph調整が困難になることから、水産廃棄物単独でのバイオガス化は行われておらず、あくまで発酵添加剤としての利用が主流となっています。

従って、資源循環の側面から水産廃棄物(肉身)の処理を考えた場合、農業側から排出される家畜ふん尿と水産廃棄物の処理が相互に連携し合いながら、バイオガス化という形でのエネルギー転換を図ることが望ましいと考えます。特に、水産廃棄物の場合、廃棄物の発生範囲が漁港近傍の水産加工場周辺に集約されるケースが多く、資源の回収に要する労力、コストが少ないことが利点となりますので、漁港周辺地域を核に農業地域と一体となった地域資源循環システムを早期に構築することが望まれます。

次に、水産廃棄物の中で不燃物である貝殻などの資源循環について考えてみます。北海道の水産特産品でもあるホタテ貝などからは、大量の貝殻が廃棄物として排出され、かつては漁港近傍の空き地などに山積放置されるなど、地域にとって大きな環境問題とされてきました。


近年は、その多くが管理型の産業廃棄物として埋立て処分されるほか、農地などの排水改善目的に施工される暗渠排水用疎水材や擁壁背面水抜き材、道路路盤材としての利用なども増加しており、リサイクル資源として見直されるようになっておりますが、貝の処理法によっては有機質除去が不完全なために利用範囲が制限されることや、地域によっては需給バランスの不均衡から、廃棄物処理を削減できないなどの課題も残されております。

しかし、近年になってホタテ貝殻のアルカリ性を利用した酸性土壌や、火山周辺で発生する酸性水を中和する安全な有機資材として、またそれをセラミック加工することによって生ずる抗菌性と粉末加工技術の開発によって、アレルギー体質の人に無害な不燃壁材が作られ、一般住宅やホテル、オフィスなどでの普及が進みつつあるように、これからは先端技術を活用した高付加価値商品の開発など、水産資源の有効活用と廃棄物処理の削減に向けた技術開発が進展しています。