(1)   農畜産廃棄物について

農業はそもそも、収穫物として外部に持ち出される(消費される)養分と再生産のために投入される養分が均衡している限り周辺に環境負荷を与えず再生産が可能であり、これが持続可能な農業の基本理念とも言えます。

北海道農業は、昭和30年代の面積増による規模拡大から昭和50年代以降の低コスト化の実現に向けた大規模・効率化農業へと経営形態を変化させながら、北海道をわが国最大の食糧基地へと発展させてきましたが、それを支えてきたのは海外の安価な化学肥料や配合飼料などの導入でした。しかし、酪農専業地帯として発展を遂げてきた道東などでは昭和50年代以降、飼養数増による規模拡大が進み、一部の地域では大量の海外産飼肥料が投入されたことによって、環境容量をオーバーした家畜経由の飼料成分が周辺農地に凝集され、地域環境の汚染が懸念される状況になっています。また、道央や道南に広がる水田地帯や畑作地帯でも、経営改善を目的に使用された化学肥料や農薬類の大量投与が農地を含む地域の自然環境汚染を招いてきました。

自然の循環サイクルにおける家畜ふん尿と環境の関係については、これまで国内外で様々な研究が行われてきましたが、酪農先進国であるEU諸国では窒素(N)の環境容量などをベースに、牧草地1ha当たりの飼養可能頭数を2頭/haに定め、個々の牧場における飼養頭数を制限している国があります。酪畜主体の農業経営が営まれている道東においても、地域全体の牧草面積当たりの飼養頭数は概ね2頭以下で、海外などの基準値から判断しても適正レベル内にあると言えますが、個別農場単位では環境容量を超えた多頭飼育が行われている農場もあり、養分の流出が隣接する河川などを経て周辺環境に影響を与えることが懸念されています。

自然の循環サイクルを活かした持続型農業を実現するためには、家畜ふん尿処理を広域的環境容量の視点で捉えるだけでなく、より限定的・局所的な環境容量で捉えることが重要であり、個別牧場当たりの飼養頭数を制限するなど新たな規制措置が必要になります。

一方、食糧の大半を海外に依存しているわが国の食糧需給実態からは、自給率向上を図っていくことが不可欠であり、そのためには限られた農地の中で生産性向上を指向する以外に方策はありません。しかし、生産性向上に必要な飼肥料のほとんどを海外に依存している現状からは、わが国農地の環境容量を大きく超える栄養成分が国内に持ち込まれていることを窺わせ、そこから排出される農業廃棄物の全てを資源循環という美名の下に堆肥化して農地還元することは、結果として自然の循環サイクルを崩壊させてしまうおそれがあります。従って、私達は、地域の環境容量を超える飼肥料成分は堆肥以外の他用途資源として利用を図っていくべきと考えます。

具体的には、家畜ふん尿を嫌気性発酵させることによって得られるメタンガスを活用して発電や熱エネルギーとして利用したり、改質技術を利用してメタンガスから水素を抽出し、それを燃料電池などの燃料として利用することなど、わが国将来のエネルギー政策に結びつけた利用展開が必要と考えます。



環境に優しい新エネルギーの利用、化石燃料消費の削減、地球温暖化の防止など、様々な形で地球環境の保全が求められている今日、私達は既存経済システムにおけるコスト優先の判断基準とは異なった視点で、農業廃棄物の再利用・資源化を考え実現していくことが重要であり、これを実現するためには、原材料の地域間移送にかかわる労力やコストなどを、農家個々の負担だけに委ねるのではなく、社会全体が一つの目的に向かって協力し合う地域支援システムが必要であると考えます。





















畜産廃棄物処理の問題点を整理すると次のようになります。


1) 制度的な問題点


ア 縦割り行政の弊害

・畜産廃棄物処理システムは処理後の利用目的の違いによって、堆肥製造システム(農林水産省推進)と、エネルギー転換も視野に入れたバイオガス製造システム(経済産業省、国土交通省推進)に2分されますが、推進官庁の違いによって処理方法が異なることや、システム設置に対する補助内容も異なることなど、農家側に少なからぬ混乱を招いております。


イ 有資格者配備の義務

・バイオガスプラントでは、可燃性ガスの発生や発電を伴うため、危険物取扱責任者、電気保安責任者などの有資格者が必要です。


ウ 制度と補助

・畜産廃棄物は、本来発生原因者である酪農家が責任を持って処理すべきですが、その費用が巨額となるため補助金が投入されています。

・規制する法律が先行し、排出農家に対する補助制度などの整備が遅れています。

・補助制度を利用する場合、一定以上の受益者数確保などの規定があります。

・廃棄物処理の設備機械更新(概ね10年後)に対する制度が未整備です。 

・補助することに対する国民の幅広い同意が必要です。


2) 技術的な問題点


ア 地域の特殊性

・半年間農作業不可能な積雪寒冷地であるほか、営農形態の地域差などから、堆肥利用計画や保存場所確保などが一元的に検討されていません。


イ 農業機械の開発の遅れ

・堆肥、消化液を圃場に散布する機械が開発途上であり、台数不足のために高価です。


ウ 畜舎方式の差

・繋ぎ飼いのスタンチョン方式が主流ですが、新しいタイプで放し飼いのフリーストール方式への転換も始まっており、畜舎タイプにより廃棄物処理の循環方式が異なります。(畜舎タイプを変更するための費用も必要となります。)


エ システムで製造された製品の品質

・製造された堆肥や消化液などの品質、成分に均一性が取りづらい状況です。

・・含有の可能性がある微量元素について安全性の明確な判断がなく、農家の信頼感が薄くなっています。
・製品利用者(農家など)の立場にたった研究機関などのバックアップが不足しています。






 












  3) 経済的な問題点


ア 設備費、維持費の高出費

・新規設備費は一部補助金で賄われますが、システム価格が高価であるため農家負担も高額となります。

・設備機械の更新期(概ね10年後)に再び出費が嵩みます。

・運転経費などの維持費が嵩みます。


イ 搬出搬入時の経費

・処理施設への原糞尿の搬入手段や経費、及び施設で製造された堆肥などの搬出手段や流通販路が確立されていません。

・農作業不能となる冬季間の製品保管場所が必要となります。

ウ システムで製造された製品などの価格

・バイオガスプラントで生み出される電力は、発電コストが一般売電価格と比べ高価であるため、通常、経済的には成り立ちません。