(1) 事業系から排出される有機質廃棄物について


 事業系から排出される有機質廃棄物の処理には下記の問題点があります。


ア 農家は食品廃棄物を発酵させた堆肥の安全性を不安視しており、農作物の肥料として積極的に利用できる状況にありません。
イ 食品廃棄物を原料にしたバイオガスシステムがありますが、残さの処理や建設コスト、ランニングコストが高価で、都市での普及には大きな障壁があります。
ウ 食品廃棄物を清掃工場で焼却処理した場合の、地球環境への影響や省エネルギーの効果が正しく評価されていないようです。


 飲食店・ホテル・スーパー・食品加工工場などの事業者が排出する食品廃棄物の大部分は、清掃工場で焼却処理されていますが、これ以外にいくつかの処理方法があります。

先ず、収集した食品廃棄物を発酵施設でコンポスト化する方法があり、全国でも既に多くの施設が稼働しています。このようにいろいろなものを混ぜて集約処理をすると、原料の由来が全く分からなくなり、製造された肥料の安全性が証明できなくなります。また、防腐剤などの食品添加物が土中の微生物に与える影響も明らかになっていません。安全性が不確かな肥料を使って生産された農産物を、消費者が進んで購入するとは考えにくいでしょう。

次に、食品廃棄物を嫌気処理し、処理過程で発生するバイオガスを燃料にして内燃機関を駆動し、電力と熱を得るバイオガスシステムがあります。

効率良くバイオガスを発生させる技術は、既に確立したものになりつつあり、コ・ジェネレーションによるエネルギー効率もかなり高く、ある意味では有効な処理システムといえます。しかし、このシステムでネックとなるのは、処理システムフローの最後段に位置する消化液と呼ばれる発酵残さの処理です。生ゴミを原料にしたシステムの消化液は有機質肥料として、作物の生育に効果が期待できるという報告もあります。しかし都市部においては、生ゴミの処理で発生する消化液の需要がほとんど見込めません。遠く離れた農地まで運ぶために要するエネルギーは、無駄と言わざるを得ません。

消化液を有効利用できないとなるとこれを固液分離し、液体部分は水処理を行い下水道に流すことになり、固体部分は汚泥処理を行なわなければならなくなります。得られたバイオガスから回収できるエネルギーと、水処理・汚泥処理にかかるエネルギーは、比較するまでもなく圧倒的に不利となります。貯留施設の建設スペースなどの問題もあり、都市で排出される食品廃棄物のバイオガスシステムは、なかなか単純に推奨できる技術と言いきれる状況にありません。

一方、レストランやホテルで発生する食品廃棄物を、質の良いものは家畜飼料として畜産農家へ、そうでないものは乾燥処理や発酵処理して農家へ供給し、農家からはこれらをさらに完熟した堆肥としたものを使って育成された農産物を購入するという、循環への取り組みが増えてきています。

この場合の循環を成り立たせる条件として、食品廃棄物の排出者が明確であること、農畜産物を育成するために使われた飼料、肥料の出自が明確であるということが挙げられます。農家は生産物の購入が担保され、収入の計画がたてられると共に、肥料原料の由来が明らかであり、安全性を信頼して生産に従事できます。この循環は、いわゆる“ブランド化”により成り立っていると考えられます。生産品の履歴が明確であることが、この循環を成り立たせると共に、さらに付加価値のついたブランドとして、一般消費者の需要を喚起することも期待できます。これは都市部と農村部の循環が非常に旨くいっている例です。

清掃工場では収集されたゴミを焼却炉で燃やし、その熱を利用して蒸気を発生させて、タービンを駆動し発電しています。焼却炉に初めて点火するときに化石燃料を使用しますが、その後運転を継続している間は全く燃料は使用せず、ゴミ自体の持つエネルギーで燃え続けます。燃える際には、地球温暖化の原因ではないかと考えられている二酸化炭素も排出しますが、燃やすゴミがプラスチックなどの化石燃料を原料にしないバイオマス由来のものであれば、その発生した二酸化炭素はカーボンニュートラルと言って、地球環境に与える影響は無いと考えられています。清掃工場は国のエネルギー施策の中でも、将来に亘って持続可能で再生可能なエネルギーを得るシステムとして、大きな位置づけを得ています。

生ゴミも清掃工場で焼却されていますが、多量に含む水分を気化させるために多くの熱量を要し、エネルギー回収の阻害要因となっています。食品廃棄物リサイクル法の施行により、ファーストフードやレストランなどの食品廃棄物を排出する事業者は、その減量を義務づけられています。食品廃棄物を乾燥することにより、減量化を達成しようとしている事業者も多く見られます。乾燥に必要なエネルギーは一見無駄にも思えますが、収集運搬にかかわるエネルギーが削減できると共に、これを清掃工場で燃やして電力エネルギーとして回収することは、都市全体での有効なエネルギー回収システムとして位置づけることができます。

以上のように、レストランやホテルなどで発生する食品廃棄物は、質の良いものは畜産農家への家畜飼料とすることは当然として、堆肥・農産物双方をブランド化することにより農家との循環システムを構築すること、また減量化のために乾燥された食品廃棄物を、清掃工場でエネルギー回収するバイオマス循環資源と位置づけることは、都市ならではの重要な取り組みであると考えます。