6.実現に向けて

私達人類は、ほんの200年ほど前まで太陽エネルギーの恵みのもと、生態系に取り込まれた営みをしていました。太陽のエネルギーを有機物として固定した植物を、燃料・食糧・資材として利用し、廃棄物・廃熱を環境に戻し、地球環境に本来備わっている循環システムに委ねていました。そしてそのシステムが受け入れることのできる範囲内で生存していました。

しかし化石燃料を手に入れ、産業革命が起こり、人類の活動規模は飛躍的に増大してきました。化石燃料を燃焼させることにより、動植物が過去の長きに亘って蓄積してきた大量の太陽エネルギーを、集中的に取り出すことができるようになりました。巨大な機械装置を動かし、高速の移動・輸送手段を開発し、産業を発展させてきました。化石燃料は、言わば「第2の太陽」として、太陽エネルギー供給の枠を超えた規模の活動を支えてきたのです。更には、原子力エネルギーという、過去の恒星エネルギーを蓄積した物質をも獲得しました。この「第3の太陽」の導入によりますます活動を活性化、大規模化しています。

これらのエネルギーをフルに投入した人類活動は、太陽エネルギーを基盤とする地球本来の循環システムを完全に逸脱し、エネルギーの収支バランスは崩れ、地球全体を温暖化に導くほどの結果を生じさせています。さらに、これらのエネルギーを投入して採掘・加工・合成・生産された各種鉱物・人工物質・薬品類は、生態系のさまざまな方面に影響を及ぼし、生物全体の生存や生殖を脅かす元凶ともなっています。

この状況を看過したままでは、地球本来の循環システムは完全に崩壊・破綻してしまう結果となりかねません。私達は、それぞれに与えられている知恵と力とを結集し、地球循環システムを維持・補助して、生態系も人類活動をも支える循環技術システムを構築していかなければなりません。

理想的な循環型社会の実現に向けて、世界各国でさまざまな取り組みがなされ、優れた技術の開発も進んできています。事例も多数紹介されており、これらの実践により地球環境の諸問題は解決するように思われています。

しかしながら、ここで留意しなければならない点があります。それは「一つひとつの要素技術の有用性と同時に、それらを組み合わせたシステム全体としての効果を考えなければならない」ということです。

人類のあらゆる活動は、必ずエネルギーを必要とします。今回のレポートで取り上げた有機質廃棄物に限ってみても、廃棄物の処理・再利用の各段階で多くのエネルギー投入を必要とします。仮にすべての有機質廃棄物を有効に再利用できる循環システムが構築できたとしても、その各段階で大量の化石燃料を消費するならば、本来的な問題の解決にはなりません。運搬の際に燃料を使用し、各種装置の運転には燃料や電力を消費します。有機質廃棄物は処理できても、そのために多くのエネルギーを消費するのであれば、地球環境全体にとってマイナス側の作用となります。温暖化の根本的原因になっている化石燃料などの使用を極力抑え、現在の太陽エネルギー由来のエネルギーによってまかなうシステムを目指さなければなりません。個々の技術開発と同時に、個別要素の組合せを総合的にコーディネートする役割が重要となります。

また、完璧なシステムを構築しても、天文学的な費用を必要とする解決策であれば、これを実現させることは不可能でしょう。経済的に自立している国々のみで成り立つシステムは、経済的に問題を抱える諸地域、人口爆発を抱える諸地域では役に立ちません。国費の投入額が年々減少する現在、循環システム構築に巨費を投ずることは、いまだ回復を見ない北海道経済において困難な状況です。廃棄物処理において、効率を追求するならば集中処理が適している場合でも、施設建設・維持・更新・運搬・保管にかかるコストを考慮したときに、分散処理の方が総合的に優れることがあり得ます。国と地方とを合わせた長期借入金が686兆円(平成15年度末予測)にも達しようとする時代に、全国規模で巨大プロジェクトを推進することは現実的ではありません。

景気が回復せず、失業率も高く、資金力も乏しい状況にある北海道にこそ、循環技術システム構築の可能性があると考えます。多額の資金投入が可能である場合、大量のエネルギーを使用して効率よく短時間に廃棄物を処理する「技術」でねじ伏せる形の事業ばかりが推進される懸念があります。短期的にはうまくいくのですが、このエネルギー源は化石・原子力に頼らざるを得ず、長期的な課題を残す結果となります。資金が乏しい環境においては、コストをかけずに効果を上げるための研究に比重を置かざるを得ませんが、そこにこそ全世界に通用するシステム構築のカギがあると思われます。更に、日本全体の中で人口密度の低い北海道こそ、一人当りの太陽エネルギー利用可能量も多いと言うことができます。なるべく地球環境に負荷をかけないシステムとするには、太陽起源のエネルギー比率をいかに高めるかということが重要になってきます。北海道は他地域に比べて、その可能性がより高いと言えます。

「循環」にかかわる諸問題は広範囲に亘る要素を含み、一筋縄ではいかない課題が山積しています。これに立ち向かって「何か形を出したい」ということは、とてつもなく壮大で無謀な計画と言えなくもありません。けれども私達は、敢えてこれに取り組み、各々の専門分野の情報を持ち寄り、何とか総合化した「循環システム」を構築したいと考えております。

今回のレポートは数ある「循環システム」のキーワード中から「有機質廃棄物」に絞り、その中の更に一部についての考察にとどまっております。しかし、この活動を契機として、数ある循環型社会への課題について考え、取り組む方々が一人でも増えることを願っております。

私達技術士はコーディネーターとしての役割を認識し、多岐に亘る諸課題に対し、より一層の研鑚と考察を深め、北海道から日本に、そして世界に向けて有用な発信をしていきたいと考えております。