公益社団法人日本技術士会北海道本部

第９４回技術交流研究会
日時　　平成１５年９月４日（木）午後１４時００分～１７時００分
場所　　札幌市厚別区厚別中央１条５丁目４番１号
㈱ドーコン会議室
出席者数　　２１名

講　演　Ⅰ　＂最近の鉄鋼材料と開発動向＂
森技術士事務所
森　俊道（金属・総監部門）
１．鉄鋼材料の特質
鉄鋼は社会整備インフラから日用品、ハイテク製品まで幅広い分野で使用され、わが国の素材消費量の４０％を占めている。その原動力は鉄鋼材料の特質である高強度・髙靭延性および低価格を追求し、高度化するニーズに応えて新製品を開発し続けてきたことにある。
２．最近の新製品
鉄鋼製品の開発は、鋼材開発だけにとどまらず部品設計や構造物製造まで踏み込んだ利用技術との組み合わせ開発に特徴がある。たとえば超軽量自動車を目指したＵＬＳＡＢプロジェクトにおいては、複相組織鋼板（Ｄｕａｌ　Ｐｈａｓｅ鋼板）や変態誘起超塑性鋼板（ＴＲＩＰ鋼板）等の高強度鋼板をベースに、鋼板の一体成型や３次元レーザー溶接による車体組立て等を採用し、安全性に優れた安価な鋼製車体製造を可能にしている。
また使用量の最も多い建築・土木分野においては、多様な用途に応えて、高強度の長大橋用ケーブルやＴＭＣＰ鋼等のほかに、それとは反対の超低強度鋼や耐火鋼、制振鋼、競合材料を取り込んだチタンクラッド鋼等が開発されている。
３．日本鉄鋼業の競争力と次世代鋼材
日本鉄鋼業は量的飽和期に入ってから３０年が経過したが、年間１億トンの生産とその３０％の輸出を継続し、技術貿易も黒字を続けている基幹産業である。近年、韓国・台湾につづいて中国が目覚しく発展して鉄鋼生産・消費の中心がアジア地区に移り、日本の輸出量の７７％はアジア向けとなっている。
しかしこのコスト競争力においてアジア諸国に劣るわが国は、製造コストの低減努力はしつつも、量産鋼から高級鋼へのシフトや需要創出型新製品の開発を目指す必要がある。それを先導する次世代鉄鋼材料として、「強度２倍・寿命２倍」をめざした超微細粒８００ＭＰａ鋼や海浜汎用鋼の開発プロジェクトが活動中である。

講　演　Ⅱ　＂機械加工の現状と職業訓練＂
北海道経済部人材育成課
岡田　昌樹（機械・総監部門）
１．北海道の職業訓練
（１）新規学卒者対象
・道立技術専門学院（１１箇所）
・ポリテクカレッジ（銭函）
（２）離転職者・在職者対象
・ポリテクセンター（札幌・函館・旭川・釧路）
・民間認定校（４６校）センター他（３３箇所）
２．職業訓練の役割
（１）昭和３３年：職業訓練法の制定
（２）４０年代まで：高校進学率が低く、熟練工が技術や技能の中軸を担う：役割大
（３）５０年代以降：高校進学率が高くなり、生産現場も重厚長大から軽薄短小へ移る。ハイテクに強い若年労働者の需要が高まり、技術革新や経済のグローバル化への対応が必要。
３．職業訓練教育の魅力
［技能と生活指導］：技能を学ぶ中で、社会人としてのモラルや道徳を身につける。
４．職業訓練の現課題
（１）中高年齢失業者（全失業者の４割弱）→同じ職種・同じ給料で探し、就職できない。
［対策］価値観・興味・能力を分析し、その人に合った職業を見つけ、納得させる。
（２）高卒未就職者（大卒者の２２％、高卒者の１１％が無業者）
［原因１］求人が少ない：企業の「少数厳選」採用とアウトソーシング化。
［原因２］若者の意識：①就業観の欠如　②動機の欠如　③能力の欠如
［対策］キャリアの形成（エンプロイアビリティの向上）
（３）労働力需給のミスマッチ（失業者の７割以上がミスマッチ）
［対策］職業別に採用に至らない原因を見つけ、その不足部分を教育・訓練で補う。
５．機械加工の現課題
（１）環境問題［鉛快削鋼］：鉛の添加された材料は潤滑性が増し、削りやすい←環境汚染物質
［対策］脆化作用は硫黄（Ｓ）など他の元素で補い、潤滑効果は工具や切削方法で付与する。
（２）環境問題［切削油］：３つの効果「冷却・潤滑・切りくず排出」がある。
［問題］発ガン性物質・ダイオキシン発生・エネルギー消費大。
［対策］ドライ加工では限界。「より安全な」油剤の開発と使用者側の意識改革が必要。
（３）安全性問題［マグネシウム合金］：地球に豊富にある資源で、軽量化できる。
［問題］加工時に燃焼・爆発する事故が発生した。
［対策］安全な取り扱いや加工方法の確立と教育。
（４）社会問題［空洞化］：製造工場の海外移転←人件費の差
［対策］①知的所有権の確保　②ブランド製品、高付加価値製品　③新産業の創出