公益社団法人 日本技術士会北海道本部


第83回工業技術研究会
日時 平成12年12月7日(木)午後15時〜17時30分
場所 札幌市厚別区厚別中央1条5丁目4番1号
   北海道開発コンサルタント(株) A会議室

出席者数  名
情報交換
講演 ”ヒト臍帯血造血幹細胞の生体外増幅”
     巨核球系造血前駆細胞の特異的増幅をめざし  
     北海道薬科大学放射・薬品学研究室
        薬学博士  柏倉幾郎 氏

<要旨>
白血病や癌における化学療法・放射線療法の重篤な副作用である骨髄毒性を克服する補助療法として骨髄移植が開発され、その後移植される造血幹細胞は末梢血からも採取可能であることがわかり、これを利用する末梢血幹細胞移植も始まった。
さらに臍帯血中に造血幹細胞の存在が明らかになると、臍帯血を利用した造血幹細胞移植が始まった。臍帯血とは、臍(へそ)の緒を介して胎児と胎盤を循環している血液で分娩後、臍の緒と胎盤から採取する。
1993年ニューヨーク血液センターに臍帯血バンクがスタートして以来、米国内、ヨーロッパ各国および日本国内に臍帯血バンクが誕生し、現在では臍帯血造血幹細胞移植用の検体を統一基準で製造、保管、供給する体制が整備されつつあり、各バンク相互で検体の検索および供給も行われるようになってきている。臍帯血中に存在する造血幹細胞は、骨髄細胞や末梢中に認められる造血幹細胞に比べ増殖能力が高く、その密度の高い。また移植後に起きる重篤な異常反応である移植片対宿主病も少なく、白血球抗原が一部不適合でも移植可能であるという優れた特徴を持つ。本来が分娩後廃棄されるものであるだけに、現在の日本での1年間の出産数120万件の1割をバンクとして利用できれば、造血幹細胞移植を必要とするほとんどすべての子供の患者を救うことができるとの試算もされている。
問題点としては、採血システムの確立のほか、臍の緒と胎盤からの採取であるため、一回の採取可能血液量が50〜250ml、平均で80mlと限られているため成人への適応が難しいことと、移植後血小板の回復(>20,000 / μl)に時間がかかる点(29日〜121日、平均52日)などが挙げられる。採取量の問題を解決する方法の一つとして、造血幹細胞の生体外培養増幅法がある。これは、いくつかの造血因子を組み合わせて、細胞培養法で造血幹細胞を増幅させようという試みである。一方、血小板回復の遅延に対しては血小板輸血が有効な対処法で、依然として輸血によるウィルス感染のリスクを伴う。
演者はこれまで、臍帯血幹細胞移植後の速やかな血小板回復を目指し、血小板産生細胞である巨核球系造血前駆細胞の特異的な増幅法をテーマの一つとして研究を行ってきた。講演では演者がこれまでに得た研究結果とともに、世界各国で進められている再起の研究成果についても併せて報告する。