公益社団法人 日本技術士会北海道本部

第77回工業技術研究会
日時 平成11年6月3日(木)午後3時〜5時半
場所 札幌市厚別区厚別中央1条5丁目4番1号
   北海道開発コンサルタント(株) 会議室

出席者数  名
情報交換
講演 ”レーザーを用いたアルミニウムの局部表面処理”
     北海道大学大学院工学研究科   分子化学専攻
      界面制御工学講座   表界面微細構造解析分野
       教授   工学博士 高橋  英明 氏

<要旨>
アルミニウムのアノード酸化(陽極酸化)技術は、防食 ・ 装飾の目的のほか、多方面で利用されている、
オフセット印刷に使われるPS板(presensitized  plate)は、アノード酸化皮膜の水漏れ性及び有機物との密着性をうまく利用したものであるし、アルミニウム電解コンデンサー中の誘電体薄膜は、アノード酸化皮膜の高電場支持性を利用したものである。太陽熱吸収板は、アノード酸化皮膜の細孔中に、金属微粒子を電解析出させることにより、光の吸収を最大限に高め、熱線の放射を最低限に抑えるように工夫したものである。アノード酸化皮膜の細孔を利用したメンプレンフィルター、イオン透過膜、金属ナノドットアレー作製の鋳型などは、アルミニウムの多孔質アノード酸化皮膜の特殊な幾何学構造を利用したものである、
最近、各種のレーザーが開発され、これを用いた金属の表面処理が多方面で行われるようになった。以下、アルミニウムの陽極酸化の最先端技術の一端として、レーザー照射との組み合せによる新しい表面処理法を紹介する。
●  レーザー照射・アノード酸化複合処理によるアルミニウムの局部着色
アルミニウムを中性のホウ酸塩溶液中でアノード酸化してバリヤー型の酸化皮膜を形成し(アノード電位 : E1)、これを硫酸溶液中に浸漬する。これに、凸レンズで集光したパルスYAGレーザービームを照射すると、素地金属が急速に加熱され、一種のプラズマ状態を形成し(レーザーアプレーション)、それによって引き起こされた高い圧力により皮膜が局部的に除去される。レーザー照射ののち、その溶液中でアノード酸化を行う(アノード電位 : E2, E1>E2)と、皮膜が剥離した部分のみに多孔質のアノード酸化皮膜が生成する。アノード酸化ののち、アリザリンレッドなどの有機染料溶液中に浸漬すると、多孔質皮膜が成長した部分のみを着色できる。
● アノード酸化 ・ レーザー照射 ・ (無電解)メッキによる金属の局部析出
アルミニウムを硫酸あるいはシュウ酸溶液中でアノード酸化して多孔質酸化皮膜を形成した後、沸騰蒸留水中に浸漬して封孔処理を行う。これをCu, Ni, Pdなどを含む溶液中に浸漬し、上述のようにレーザー照射を行うと、皮膜の除去と同時に金属微粒子が皮膜除去部に析出するのでレーザー照射ののち、カソード分極により電気メッキを行ったり、無電解メッキを行うと、レーザー照射時に析出した金属微粒子が析出核となって局部金属析出ができる。
以上、ここに紹介したアノード酸化とレーザー照射の組み合せた新しい表面処理法は、局部アノード酸化、局部金属析出に加えて、局部有機膜塗装にも応用が可能であり、プリント配線基板、印刷原板、あるいはマイクロ機械デバイスなどの作製技術としてと期待されている。