公益社団法人 日本技術士会北海道本部

第76回工業技術研究会
日時 平成11年2月2日(火)午後2時〜5時
場所 札幌市厚別区厚別中央1条5丁目4番1号
   北海道開発コンサルタント(株) 会議室

出席者数  名
情報交換
講演 ”高柔軟 ・ 高信頼電気エネルギー流通システム(FRIENDS)”
     北海道大学大学院 工学研究科
        工学博士   長谷川  淳 氏

<概要>
現在、電気事業は大きな変革期を迎えている。電気事業に関する法的規制の緩和が世界各国において進行しており、電力市場の自由化、競争環境の導入の波がどっと押し寄せてきている。この状況は我が国においても例外ではない。また、今後は、小規模電源や電力貯蔵設備の需要家側への導入が進むと見込まれ、さらに多様な需要家ニーズに柔軟に対応できるシステムが一層重要となるものと予想される。高柔軟 ・ 高信頼電気エネルギー流通システム(FRIENDS)は、以上のような背景の下で、将来の望ましい電力システム(特に、需要家に最も近い配電システム)の姿として、長谷川(北海道大学)および奈良(茨城大学)によって全く新しい発想から構想されたものである。FRIENDS研究は、現在、国際会議で特別セッションが組まれたり、国際共同研究がスタートするなど、国際的にもホットな話題となりつつある。
1.FRIENDSの背景
現在、世界中で電気事業 ・ 電力システムを取り巻く環境は大きな変化を見せている。英国では1990年に電気事業が再編成され、発電部門、送電部門が分離され、部分的にではあるが自由競争の時代に入った。米国やその他の国々でも法的規制緩和により、競争の時代に移りつつある。我が国においても、1995年に電気事業法が大幅に改正され、非電気事業者による卸発電部門への参入が始まり、卸 ・ 小売 ・ 自己託送が制度化され、徐々に実施され始めている。一方、電気事業の競争環境下においては、需要家は最小コストでの電力購入手法を考え、電力供給者は競争下で自社の利益を最大化する手法を考えるものと思われる。このことは、需要家ー供給者相互の情報交換によってなされねばならず、このため協力な情報ネットワークが設備されるのは必然である。この情報ネットワークは、単なる電力供給に関する情報伝送に止まらず、ホームオートメーション等のマルチメディア環境での顧客サービスに結びつくものと思われる。また。近い将来、設備価格の低下に伴い、不特定多数の需要家が小規模な分散型電源(太陽光発電、燃料電池、コジェネなど)や電力貯蔵装置(バッテリ、電気自動車など)を所有することになるであろう。さらには、電気料金の低価格化、瞬時電圧低下や高調波のない高品質な電力供給への要求など、需要家の要望も更に多様化するものと予想される。このような要望に応えるため、顧客が自由に電力の質(価格)を選んで購入可能とするいわゆるマルチメニューサービスなども提案されている。このように、将来の電力システムには、特に、需要家にもっとも近い配電システムには、さらなる高柔軟性かつ高信頼性が求められている。
このような背景から、将来を見据えた次世代の電気エネルギー流通形態が世界的に研究され始めてきている。例えば、CIGRE(国際大電力システム会議)においては、配電分野へのパワーエレクトロニクス技術の活用を目指して、Custom  Powerに関する作業部会が1996年に発足し、活動を始めている。また、需要家に多品質電力供給を実現しようとする動きが、米国を中心に活発化している。我々は、規制緩和後に電力システムに設備されるであろう様々な装置を利用して、柔軟に系統構成を変えながら、信頼性の高い電力を省エネルギーを考慮して供給可能な、W高柔軟 ・ 高信頼電気エネルギー流通システム(FRIENDS)Wと名付けた新しい配電システムを構想しており、その現実に向けて基礎的な検討を行っている。
FRIENDSは、従来から国内外で個別に検討されていた配電システムの自動化 ・ 近代化、並びに省エネルギー方策などの話題を統合し、システムに柔軟性および高信頼性を持たせたところに特徴がある全く新しい概念であり、分散電源 ・ 電力貯蔵技術、DSM、パワーエレクトロニクス技術、情報伝送並びに情報処理技術を駆使してこれを実現しようとするものである。
2.FRIENDSの全体構成
FRIENDSの最も特徴的なところは、需要家に様々な品質の電力を供給するために、配電用変電所と需要家との間に「電力改質センター(QCC)」という電力品質の改善設備を設置したところにある。このQCCは、例えば、現在の配電システムの一区間程度、配電塔ごと、大 ・ 中規模の工場や商業ビルあるいは集合住宅ごとのように、需要家のすぐ近くにおかれることになるであろう。QCC内では、多様な品質の電力を作り出すほか、静止型開閉装置により高圧側並びに低圧側配電ネットワークの柔軟な構成変更が可能となる。もちろん、適当量の分散電源や電力貯蔵装置も設備され、高信頼化、省エネルギー、負荷平準化等の役割を果たす。
今一つの重要なFRIENDSの特徴は、供給者と需要家間に設備される強力な情報ネットワークを活用する点である。QCCは需要家に最も近いという利点を利用し、この情報ネットワークにおける情報処理並びに情報交換センターの役割も果たさなければならない。
QCC内の開閉装置やその他の機器 ・ 装置の操作 ・ 制御 ・ 保護および需要家側制御は、支店等に設置される制御用計算機と配電用変電所やQCCおよび需要家側のコンピューターの連携によって、グローバルな視点から行われつつ、場合によってはQCCが自律的に行動する分散処理体系にもなるものと思われる。これらの用途に用いられるデータは、運用 ・ 保守 ・ マッピング ・ 料金計算などの電力流通システムの管理 ・ 運用 ・ 制御を統合したデータベースとして一元的な管理がなされることになる。当然、この情報ネットワークは、電力供給に関する情報提供 ・ 情報交換に止まらず、高度な顧客サービスにまで結びつくものである。
このようにFRIENDSは、多種多様な需要家ニーズに高い柔軟性と信頼性を確保して対応できるとともに、需要家と双方向の情報サービスが可能な、いわばもっとユーザーフレンドリーな次世代の電気エネルギー流通システムなのである。