第75回工業技術研究会
日時 平成10年12月3日(木)午後2時〜5時
場所 札幌市厚別区厚別中央1条5丁目4番1号
北海道開発コンサルタント(株) 会議室
出席者数 名
情報交換
講演 ”3次元CADと高速立体成形”
北海道工業大学 情報技術センター長
教授 工学博士 竹内 茂 氏
<要旨>
1.高速立体成形の登場
3次元CAD画像データから工作機械等を一切使わず、短時間に直接CAD画像と同一の物体を作りだす技術はRP&M(Rapid Prototyping and Manufacturing)と呼ばれ、高速立体成形法として普及しつつある。1987年、米国のAUTOFACT V87で3D Systems社が初めてRP技術の先駆けとなる光造形の実用装置SLA−1(StereoLithography Apparatus)を出展したことに始まる。日本には1988年、NICOGRAPH V88(東京)で紹介され、製造業に大きな衝撃を与えた。我国では3次元CADの歴史は欧米に比べ極めて浅かったが、SLA−1の威力を感じ取った自動車、電子機器等の先進企業の一部は新製品の試作、開発期間短縮のために早速これを導入した。それ以前はCADのDはDesingではなく自動製図機で図面を描くDrawingとしての認識が強かった。図面情報としての2次元データと3次元の画像情報では処理量に格段の差があるため、3次元データ処理を可能にするハードウエアやCADソフトは高価なものとなり、更に、一般企業では設計段階で3次元CADを採用する土壌が十分熟成されていなかったため、普及し始めるのにこの後2、3年を要した。SLA登場の半年後、我国のメーカーは同様の装置を市場に出し始めたが、成形品の強度や寸法精度は樹脂硬化後の機械的性質、収縮率、CADシステム等の優劣で決まるため、この面でも日米メーカーの競争は益々激しくなっている。
2.設計概念の早期決定
機械構造部品の新設計の際、従来は製造時において必ずしも設計者の意図が100%反映されるとは限らない場合が多く、特に今までにない形状では組立時において部品同士の干渉が生じ、結果的に手直しや再設計せざるを得ない状況に至ることがある。RP技術は少なくとも形状設計に関しては設計者の意志が十分に反映されるものであり、設計者にとっても完全な形状で製作前に精密な実寸模型の形で部品を把握できる利点がある。
3.成形方法
光造形は3次元物体をソリッドモデルで創成した後、これを任意の座標面に平行に多数の2次元断面に分割(スライス)し、これら断面毎に感光性液体樹脂槽の液面上に紫外線レーザーで断面形状を描画する。被照射面は瞬時に硬化して液槽中に順次硬化層が累積され、最終的に液体中に固形樹脂の物体が完成する。最近では液体樹脂の他に加熱溶解した樹脂を光造形と同様の方法で断面積層後、冷却硬化させる方法も出現している。光造形や溶解樹脂造形においても樹脂の強度が改善されてきており、構造への負荷条件によっては造形品を直接実機部品として使用することも試みられている。
4.製造業等への適用(実寸、拡大、縮小モデルとして)
1)自動車
エンジンブロック、排気管、ディストリビュータ、ミラー、インパネタイヤホイール、タイヤ、変速機構、ボデイ、過給機、歯車等
2)航空.宇宙
圧縮機、タービン翼、人工衛星部品、機体模型等
3)電気.通信.電子機器
携帯電話、テレビ.コンピューター筐体、コネクター、オーディオ機器、ビデオカメラ部品等
4)医療.医学
注射器、点滴用器具、人工骨型、骨格模型、歯形模型等
5)飲料.化粧品、流体機械
各種ボトル、容器、ポンプ羽根車、水車タービン、風車
5.型設計
機械構造は数多くの部品から構成されるが、軽量・小形化のため従来金属材料を使用していたものを合成樹脂に置き換え、数多くの部材締結や組立工程を削減するため、鋳造品のように完成形状に近い状態で入手できるRP技術の適用が浸透している。最近では、樹脂模型を原型として他の高強度樹脂や金属材料を注型する方法も研究されており、仕上がり精度の改善も著しい。特に多品種超少量生産に対して、例えばシリコーン樹脂等で型を作りこれにポリウレタン樹脂等を流し込み、従来の射出成形品や鋳造品と同等の部品を製作する方法も盛んに研究されている。
6.研究.教育機関への導入
SLA−1の登場とともに米国の先端的な大学や研究機関では3次元CADと光造形の応用研究が始まった。このような情勢の中で、我国でも設計教育の改革を目指す大学、高専では従来の製図主体の設計に物造りの概念を連結させるため、革新的な設計教育システムの開発を試みている。特に、機械工学の分野では学生の理工離れ、物造り忌避を食い止め、創造の感動を若いうちに味あわせるために、今や3次元CADとRP技術は不可分となっている。
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