第66回工業技術研究会
日時 平成9年6月5日(木)午後2時〜5時
場所 札幌市中央区北4条西5丁目アスティ45ビル
北海道開発コンサルタント(株) A会議室
出席者数 18名
情報交換
講演 ”森作りの文化性”
森林空間研究所
主宰 農学博士 東三郎 氏
<要旨>
文明社会の水不足
天然資源の開発や土地利用の拡大に伴って自然林が消滅し、近代的な人工空間が続々と建造されたが、華やかな経済活動とは逆に、自然の生態系は抹殺され人間の生存までも脅かされるようになった。とくに都市の水不足は深刻な社会間題であり、これからは同一価値観の持てる「飲み水」をキーワードとして、水源林の機能や山林の形態について検討していかなければならない。
森林の成立
森林は昔から在ったものとして語られ、人々の描く森林のイメージは百人百様と言えるが、噴火・地震・津波・台風・豪雨・干ばつ・低温などに支配されている森林の歴史は明らかにされていない。土砂崩れや土石流の発生現場では、直後に飛来した樹木の種子が発芽し、やがて定着する様相や倒木の根系を観察できるが、その生態や構造から地表の安定度と生物間の競争を通して森林の起源に触れることができる。
渇水期の指標
異常な渇水期には川の水が少なくなりダムが干上がって社会間題になるが、不思議に豊かな森林に覆われた渓流の水は涸れない。離島での渇水期の流量観測によると、森林と水の肯定的関係は明確であり、水源林造成の必要性が求められる。また渇水期の最小流量をインデックスにし、地形・地質・土壌などを総合した流域の個性を比較すると、火山岩地帯は堆積岩地帯よりも極めて高い保水性をもっていることが分かる。
森林の再生
次の世代に「きれいな飲み水」を遺そうとすれば、なにはさておき雨や雪の受け皿である森林の整備に力を注がなければならない。時間と労力の掛かる森林化を、誰が・何時・何処でやるのか、「飲み水」を中心におけば当然地域住民の解かなければならない間題である。また養苗・植栽・保育などの手間を省く手段の工夫も必要である。すでに植林の効果が現れ、離島の水枯れは解消し、魚類・鳥類・哺乳類も集まるようになった。
自然との共生
森林は木材を生産する場として長い間価値づけられてきたが、自然災害が頻発するようになって漸く保全の対象になってきた。場を保全することは野生生物の棲み家を創ることにもなり、文化として自然を愛する心を養い、世代交流の拠点を創る契機にもなる。経済価値を超えた空間を共有し、植林という共有の体験を積むことによって、地域ごとに自然との共生を図る道も開けるだろう。
|
|
|