公益社団法人 日本技術士会北海道本部


第65回工業技術研究会
日時 平成9年4月17日(木)午後2時〜5時
場所 札幌市中央区北4条西5丁目アスティ45ビル
   北海道開発コンサルタント(株) A会議室

出席者数 19名
情報交換
講演 ”ケーブルセンサーの理論と応用”
     北海道大学工学部資源開発工学科
        助教授 工学博士 氏平増之 氏

<要旨>
ケーブルセンサの構造及び測定原理は、同軸ケーブルとほとんど同様の4層構造を持っている。中心の第1層は導線(より線)であり、第2層はFEP(4フッ化エチレン及び6フッ化エチレンの共重合体)とよばれる強誘電性絶縁材料、第3層は網状のシールド、第4層は黒色をした絶縁被覆である。第1層と第2層の間にわずかな隙間があり、例えば第1層のより線は手で引っ張ることで簡単に抜き取ることができる。このようにルーズになっていることが構造上の特徴である。
外部から衝撃を受けた際、ケーブルセンサは振動する。振動によりセンサ内部の絶縁材料(FEP)と内部導体間で摩擦が生じ、第2層FEPの内側と外側に符号の異なる電荷が発生する2)。内側の導線と外側のシールドの間に抵抗を接続すると電流が流れ、抵抗両端から電圧信号を取り出せる。メーカでは測定原理はトライボ効果によると述べており、約300mまで延長して使用できる。

北海道の沿岸道路や山岳道路沿いでは、急傾斜の岩盤斜面が多くみられ、崩壊ないし落石危険な箇所が少なくない。このような箇所では、崩壊の前兆として破壊音や小規模の崩壊音を発する1)。落石がトンネルの巻出部や覆道へ衝突した時には衝突による振動が発生する。破壊音、崩壊音、衝突による振動の大きさと発生位置を標定する方法の一つとしてケーブル自体がセンサになっている振動検出用ケーブルセンサを用いる方法が考えられる。ケーブルセンサは、現在、原子力発電所への侵入者検知用等として用いられているが、広く用いられるには至っていない。ここでは、既存の米国製ケーブルセンサの応答特性を調べこの計測システムの実用化の可能について探求するため「ケーブルセンサの応答特性に間する実験」、「震源位置標定に関する実験」を行い次の結論にいたった。

既存の米国製のケーブルセンサ(国内では製造していない)は構造が極めて単純で安価である。そのわりには出力信号の値が加速度計による加速度測定値と一定の関係を持っている。すなわち、高精度でない加速度計という位置づけになる。これを格子状に敷設して物体の落下位置を二次元的に標定できることは上の二つの実験結果で示した。今後、実規模の覆道あるいはトンネル巻出部と実規模の落石による実証試験が必要と考えているが、落下物の衝突で振動さえ発生すれば同様の実験結果が得られると考えられる。
岩盤崩壊、落石源周辺での破壊音、小崩壊音の位置標定と大きさの計測を行うには斜面に固定端子を格子状に配置しケーブルセンサを取り付けるか、すでに施工されている金網に格子状に取り付けるかの二つの方法が考えられる。斜面に取り付けた場合には小崩壊物の落下経路が判定できる。また、覆道等へ到達する以前に信号を捕捉出来ると考えられる。信号を検出し、とりあえず警報を発するとした場合、その間の時間は使用するコンピュータによるが、数秒以内と見積もられる。
岩盤斜面で発生する様々な現象とその都度計測されるデータの特徴に関する通年観測を実験的に行う必要もあるが、ケーブルセンサを用いた落石予知法の実用化は可能でありつぎのようにまとめられる。

<まとめ>
(1)振動検出用ケーブルセンサは加速度計としての特性を持っており、高い測定精度が要求されない場合には、加速度計の代替センサとして用いることができる。
(2)コンクリート床、大口径のヒューム管の表面にケーブルセンサを格子状に取り付けることにより、落下物による震源位置を標定できた。
(3)震源位置は、信号波形の立ち上がり時間、最大振幅から描いたトポグラフのいずれによっても標定することができる。

<謝辞>
本研究の屋外実験にあたっては、日本高圧コンクリート(株)各位に多大のご協力を頂いた。記して感謝の意を表する。
参考文献
1)平野昌繁・諏訪浩・藤田崇・奥西一夫・石井孝行:京都大学防災研究所年報, No.33
B−1, p219〜236, (1990)
2)谷口修:振動工学ハンドブック, P593〜P605, 養賢堂, (1976)