第59回工業技術研究会
日時 平成8年4月18日(木)午後2時〜5時
場所 札幌市中央区北4条西5丁目アスティ45ビル
北海道開発コンサルタント(株) A会議室
出席者数 17名
情報交換
講演 ”札幌市の酸性降水について”
北海道工業大学教養部
教授 農学博士 渡辺紀元 氏
<要旨>
「水は天からのもらい水」という諺がある。最近、この貴重な天の水が汚染され、大きな社会問題となってきた。
一般に、酸性雨とはPH(水素イオン濃度の負の対数)5.6以下の雨のことであり、これは現在、大気中の炭酸ガス濃度(350ppm)と平衡にある水のPHが5.6であるためである。将来、大気中の炭酸ガス濃度が増加すればPH5.6以下の雨でも酸性雨と呼ばれないことになる。酸性雨の生成原因は、大気中に自動車の排気ガスや化石燃料の燃焼ガスに含まれる窒素酸化物からなるノックス(NOx)と硫黄酸化物からなるソックス(SOx)が排出され、それが雨雲中に取り込まれ、酸性度の強い雨水が生成されるものと考えられている。
降水試料のPHを5段階に分けたときの各物質濃度の平均値を比較してみると、各物質濃度の最小値は、PH5.6〜4.5の酸性雨の範囲域で最も低く、PH4.5以下の強酸性およびPH6.0以上の中性の降水試料で上昇する傾向がみられた。しかし、各PH範囲の最大値と最小値は、いずれの範囲においても比較的近似し、PH4.5以下の酸性雨でも、溶存物質濃度が著しく低いこともあり、PHという強度のみで酸性雨を定義することには疑問が残る。また、降水中のアンモニウムイオンはPH4.5以下の強酸性雨の方が中性雨より2倍以上高く、これまでアンモニウムイオンがカルシウムイオンと同様に酸性の中和物質として理解されていることからみると矛盾している。従って、札幌市の酸性雨は、酸化還元電位の上昇と汚染物質量の増加が主因であると推定される。以上のことから、酸性雨とは、大気の汚れを洗ってくれた酸化力の強い水であると定義できる。さらに、雨が降らなければ、酸化力の強い大気が生態系に対してなお一層の被害を及ぼすことも予想される。したがって、この貴重な天の水を地中で吸着浄化し、酸化還元電位の一定な地下水として利用できるリサイクルシステムの確立が必要になるであろう。このためには、酸性降水を還元力の有する森林土壌、湿原などの腐植質土壌、ササ地などの野草地を含めた広い吸着面を利用して、できるだけ長い時間をかけて海へ環すため地球環境の自然修復こそ、酸性雨対策の根本的課題であると考えられる。
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