|
第36回工業技術研究会
日時 平成4年6月4日(木)午後2時〜5時
場所 札幌市中央区北4条西5丁目アスティ45ビル
北海道開発コンサルタント(株) A会議室
出席者数 17名
情報交換
講演 ”雲仙火山1991 92年噴火”
噴出物量・火砕流の発生機構・流動機構・シミュレーション
通商産業省工業技術院地質調査所北海道支所
通商産業省技官 宝田晋治 氏
<要旨>
九州西部の雲仙火山では、1991年5月24日から溶岩ドームの崩落に伴う火砕流の発生が1年以上にわたって続いている。講演では、まず火砕流の例や、分類方法、堆積物の特徴について紹介した。次に、雲仙火山の地質、1991 92年噴火の概要、溶岩ドームの成長や崩壊の様子について示した。そして、観測や火砕流に伴う振動波形の解析をもとに噴出物量の見積りを行った結果を示した。また、6/3・6/8の火砕流が溶岩ドームがのっている山体斜面の滑り落ちが引き金となって発生したというモデルを紹介した。さらに、’91年5月と6月の火砕流のビデオを上映した。また、火砕流中の火砕物の支持機構には、基本的に、乱流・流動化・粘子の相互作用・マトリックスの強度の4つがあることを示し、これらの室内実験や野外実験の成果を紹介した。そして、これらの4つの支持機構を用いて、雲仙火山の火砕流の流動機構が下部のbasal avalancheと上部のash cloudでうまく説明できることを示した。最後に、火砕流の到達距離と被災範囲の予測をエネルギーコーンモデルを使ったシミュレーションで行った結果と、流速と到達距離の予測をエネルギーラインモデルとビンガムフローモデルを使ったシミュレーションで行った結果を紹介した。
火砕流は、世界中の多くの火山で発生している。火砕流はその粘性によって、熱雲・中間型火砕流・軽石流に分類できる(荒牧、1957)。ここでは、Mayon火山、St.Helens火山、Mt.Pelee火山、駒ヶ岳火山、屈斜路・摩周火山の火砕流の例を紹介し、堆積物の特徴を示した。
雲仙火山は、別府島原地溝帯に存在する。1792年には、東麓の眉山が崩壊し、岩屑流によって15,000人の人々が亡くなった。現在流出が続いている溶岩ドームは、大きく6つのローブに分かれる。ローブの先端部では、溶岩が次第にオーバーハングしてくさび状に崩落する。
’92年3月上旬の段階では、マグマの総噴出量は約9.8×107m3、溶岩ドームの体積は約3.8×107m3、火砕流堆積物の体積は約4.5×107m3、降下火山灰の体積は約1.5×107m3と推定できた。平均すると、マグマの噴出率は約3.4×105m3 /dayであった。
6/3・6/8の火砕流に伴う振動エネルギーは実際の崩壊量から期待できる量よりも大きい。このことは、これらの火砕流が山体斜面の滑り落ちが引き金となって発生し、特に6/8の場合は、滑り落ちに伴う急激な減圧によって爆発(建設省赤外線映像)を伴った可能性が高いことを示す。また、各々の火砕流の体積とH/L比(火砕流が流れた高度差と到達距離の比)との相関を示した。
ビデオでは、’91年5月〜6月上旬の火砕流について、水無川を流れ下る様子、谷の屈曲部・滝の上部や下部などの堆積物が大量に溜まる部分から巨大なプリュームが上がる様子、堆積物の様子 を上映した。
火砕流中の火砕物の支持機構には、基本的に乱流・流動化・粒子の相互作用・マトリックス強度の4つが存在する。乱流については、動力流の上部のcloudの発達が斜面と比例すること、デューンやアンチデューンなどの堆積物の形態が流れの速さと深さによって変わること(流れ領域)を示した。流動化については、流動化実験の結果(Wilson、1980)を紹介し、淘汰の悪い火砕流の場合は一部の粒径の粒子だけが流動化する現象(準流動化)が起こることを示した。粒子の相互作用については、Bagnold(1954)の分散圧力の実験を紹介し、粒子同志の衝突による上向きの分散圧力が粒径や剪断歪速度の2乗に比例することを示した。また、Drake(1990)の6mmの球を使った実験で、粒子の流れが下部の摩擦領域と上部の衝突領域に分かれたことを示した。マトリックス強度については、野外の堆積物の厚さや傾斜、幅、巨礫の沈み込み量などを使って、降伏強度を求める方法を紹介した。
’91年5月と6月の火砕流の平均流速は、15〜24m/sであった。この流速で、乱流によって運搬できる火砕物の最大径は、流れの濃度やローズ数(粒子の沈降速度と流れの剪断速度の比)を考慮すると約1cmである。従って、火砕流の数mm以下の火山灰は、乱流によって上昇してash cloudとなり、数cm〜数mの粗粒な火砕物は、周囲の火山灰とともに下部に濃集してbasal avalancheを形成していると考えられる。basal avalanche中の粗粒な火砕物は、主に火砕物同志の衝突や摩擦による相互作用によって運ばれていると考えられる。また、火山灰のマトリックス強度やガスの上昇流による流動化も作用していると考えられる。また、ash cloudは濃度が0.3〜0.45の場合に火砕サージとなる。
エネルギーコーンモデルを使ったシミュレーションでは、摩擦係数ごとに、エネルギー的に火砕流が到達し得る範囲の予測を行った。ここでは、溶岩ドーム崩落型と、噴煙柱崩壊型の2通りについて示した。エネルギーラインモデルでは、実測値に比べて火砕流の流速が数倍速くなる傾向がある。しかし、ビンガムフローモデルを使ったシミュレーションでは、火砕流の流速や到達時間をうまく再現できる。ここでは、5/29、15:31の火砕流と6/3、16:08の火砕流について、火砕流の流速の変化、所要時間、プラツグの厚さの変化を示した。
|
| |
|