第28回工業技術研究会
日時 平成3年2月6日(水)午後2時〜5時
場所 札幌市中央区北4条西5丁目アスティ45ビル
北海道開発コンサルタント(株) A会議室
出席者数 8名
情報交換
講演 ”放射線を利用した活性酸素障害の生体内測定法の開発”
北海道大学獣医学部
助教授 理学博士 桑原幹典 氏
<要旨>
ウイルス、細菌、寄生虫等は人の病気の原因としてよく知られているものである。これらの原因による病気は比較的早く発見することから、人は誰でもすぐにそれを自覚でき、薬等による治療も迅速におこなわれることができる。一方、発癌、老化、白内障、心疾患などの各種臓器疾患等は、その発現が非常にゆっくりしているため日頃なかなか自覚されることがなく、したがってそれに対する対応も遅れがちになる。現在、こういった後発性の病気の原因として「活性化酸素」による生体の酸化障害が考えられている。活性化酸素(通常活性酸素と呼ばれているが)は酸素が還元されてできたもので、その代表的なものがスーパーオキシド(O2−)である。この分子は大変反応性が高く、脂質と反応すると過酸化脂質を作り、さらに発癌物質や発癌促進物質へと変化させる。また、細胞内の遺伝子とも反応し発癌や細胞死の原因となる。蛋白質との反応は蛋白質の変性をもたらし、様々な免疫疾患の原因となる。
人類をはじめほとんどの生物は酸素を呼吸しており、酸素は無くてはならないものである。ところが、酸素は生体内に取り込まれてから水となって排せつされる迄に一時的にこのスーパーオキシドになることが知られている。生物が酸素を利用するようになってから、誠に危険きわまり無いものを抱え込んでしまったと言える。通常は生体は巧妙な仕掛けでこの毒性分子を排除している。ところが、最近の研究によると様々な外的要因によってこの活性酸素が生体にもたらされることが明らかとなった。例えば、煙草の煙、自動車の排気ガス、アスベスト等の建材、農薬、殺虫剤、食品添加材、紫外線、放射線さらには人がショックやストレスを感じたときなど枚挙にいとまが無い位である。これらが原因となってスーパーオキシドがつくられると、生体はもう本来の活性酸素排除機能だけでは対処出来なくなってしまい、この毒性分子の攻撃を受けてしまう。この場合、活性酸素は量的にはさほど多くはなく、従って、この効果はすぐに現れず、ゆっくりと時間をかけて障害をつくりだす。このことから、今日できる限りこれらの原因を作り出さないよう環境を整備すること、日頃から抗酸化性のある物質(ビタミンC、E、B1、チオール化合物、セレン化合物等)を摂取することなどが推奨されるようになってきている。
ゴマ、緑茶、野菜、果物などにこれら抗酸化剤が含まれていることが知られており、それらを摂取することは重要なことである。ここで問題となるのは、活性酸素による障害は量的にもわずかでしかも時間をかけて進展するため、熱を出すわけでもなく、痛みを感ずるわけでもないことから、なんとなく調子が悪い程度で済ませてしまうことである。もし、活性酸素障害を生体内測定できる方法があれば、それを利用して障害の程度や薬物等による障害の治癒、さらには薬物による防護作用の測定をおこなうことができる。放射線を動物に与えると、それによるストレスが原因となって一事的に活性酸素の増加がおこる。活性酸素の増加は生体内の様々な組織、器官の障害をもたらすが、腹腔の中性脂肪組織を注目して、そこにおける発生障害の測定を試みている。測定を行うからには何らかの目印が必要である。中性脂肪組織には酸化障害がおこると脂肪酸が変性し、複雑な生成物をもたらす。予め、動物にある種の化合物を腹腔投与しておくと、障害反応が途中で停止し、損傷がその化学物のほうに移転する。従って、この化合物は損傷を受け、変性を受けてることになるが、比較的安定であることから長時間の測定が可能となる。このような変性化合物を内包する動物を磁場の中に入れ、マイクロ波を通すとマイクロ波の吸収がおこる。吸収量が多ければそれは生体内の活性酸素障害の程度が大きいことを意味し、また抗酸化剤等の投与によりマイクロ波の吸収が少なくなればそれだけ酸化障害が軽減されたことを意味する。現在、この方法はまだ試みの状態であり完成にはまだ遠いが、早く具体化できるよう努力を続けている。
将来、この方法を抗酸化剤のスクリーニングや老化の研究に役立てることができればと思っていると述べられた。
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