公益社団法人 日本技術士会北海道本部

第17回工業技術研究会
日時 平成1年4月11日( )午後 時〜 時
場所 
   
出席者数 名
情報交換
講演 ”トンネル照明実験について”
函館開発建設部  大沼道路改良事業所
         所長 菱川  幸雄 氏

<要旨>
1. 実験の目的
北海道の道路開発にともなって各地に隊道が完成されつつあるが、本実験は隊道照明用光源にどのような光源を用いるのがもっとも効果的であり、しかも有利であるかを判定することを目的としたものである。隊道照明用光源としては、白熱電球、蛍光ランプ、水銀ランプ、ナトリウムランプなどが考えられるが、白熱電球は経済的に不利であるから、蛍光ランプ、水銀ランプ、ナトリウムランプの三種類の光源について実験を行った。これら各種の光源による物の見え方については照明学会ですでに発表されているが、本実験の目的は隊道を実際に利用する状態で見え方の比較を行うことにあった。

2. 実験についての条件その他
隊道照明を行うには夜時間の照明と昼時間の照明について考えなければならない。昼時間、隊道坑口付近の照明は、数万lxの屋外照度から数10lxの隊道内照度に馴れるまでの眼の順応時間に合わせた緩和照明を行えばよいわけである。しかし、本実験は光源の相違による見え方の比較を行うという事が目的であるから、緩和照明の比較ではなく、隊道中央部の照明、あるいは夜時間の照明という考え方で照度を決めて実験を行ったのである。照度のとり方についてはJISの照度基準あるいは照明学会の資料によって決められるが、ほとんどの隊道は車だけでなく、人間も歩行するようになっているので、隊道内の照明は、一般の道路などより照度をいく分高く採り、30〜50lx程度にするのが望ましい。以上のごとき理由から本実験では平均照度を30〜40lx程度にした。本実験は各光源とも同一条件で行い、三回以上の平均値をとった。

3. 実験内容
実験は次のごとき内容のものをナトリウムランプ、水銀ランプ、蛍光ランプの各光源について行った。
(1) 路面の照度測定
(2) 運転手の視野からみた光源の輝度測定
(3) 視標を置き、何m前方でこれを確認できるか。
(4) 煙霧を発生させ、視標が何m前方で確認できるか。
(5) 視標を置き、40km/hの自動車の中から何m前方でこれを確認できるか。

4. 実験の方法
● 路面の照度測定
(1) 光源の直下から2m間隔に隣の光源直下までを測定した。
(2) 照度計は東芝5号照度計を用いた。
(3) 煙霧を発生させない時の照度を測定した。
● 輝度測定
(1) 路面中央より左側で高さ1.40mのところから測定した。
(2) 測定器にはSpectra, Brightness Spot meter (model − SBI 1/2) を用いた。
● 視標の見え方の実験
(1) 視標は間隙2cmのランドルト氏環を使用した。
(2) 視標は垂直に置き、視標面の照度は各光源とも同一にした。
(3) 実験は遠方から歩行して視標の確認できる位置で立ち止まり、視標からの距離を測定した。
● 煙霧発生の場合、視標の見え方の実験
(1) 煙霧は自動車の排気ガスと発煙筒を併用して発生させた。
(2) 煙霧の透過率測定は50mの距離から行った。
(3) 透過率測定は200W白熱電球を点灯し、電球の前面に30×30cmのスリガラスを置き、輝度計を用いて測定した。
(4) 煙霧の透過率は50mで75%の場合と、同じく40%の場合の二通りについて行った。
● 自動車の中からの見え方
(1) 自動車の速度は40km/hで実験を行った。
(2) 40km/hの場合は、11.11m/secとなるから、10秒間では約111mの走行距離になる。したがって、視標前方111nの点を通過なるときにストップウォッチを押し、視標確認の際に止める。さらに、別のストップウォッチで111mの通過点から視標通過までの時間を計り、両者の比で視標確認距離を求めた。

5. 実験の結果
実験を行うに当たって、ナトリウムランプ、水銀ランプ、蛍光ランプ各光源のワット数を決めることがまず問題になる。各光源ともワット数の大きいもの程、効率(1W当たりの光束量)は高くなるが、均斉度が悪くては良い照明にならないので、ナトリウムランプは140Wを、水銀ランプは300Wを、また蛍光ランプは40W2灯を用いた。
実験は眼の順応の関係から夜間行うことにしたため温度が下がった場合、各光源の光束変化を考慮して光源の配置を決める必要がある。したがって、実験に先立って三種類の光源について温度特性から平均照度が30〜40lx程度となるように計算し、配置を決定した。
● 路面の照度測定
140Wナトリウムランプの場合は、千鳥配置の灯間隔は26m(したがって、光源から光源までは13m)である。測定の結果、平均照度は38.2lxで、均斉度は最小照度 / 平均照度が、1/2.55、最小照度 / 最大照度が1/6となった。
300W水銀ランプの場合は、計算の結果同じく、千鳥配線の灯間隔が26m、 平均照度は29.6lxで、均斉度は最小照度 / 平均照度が1/2.19、最小照度 / 最大照度が1/4.3である。
40W2灯用白色蛍光ランプの場合は対称配置で灯間隔は9mとなり、したがって均斉度は非常によく平均照度は42.6lxになった。
平均照度及び均斉度とも蛍光ランプが一番よいが、これは光源のW数の関係あるいは配置によってこのような差が出たわけであるから、この結果だけでは優劣の判断は下せない。
● 輝度測定
自動車の運転手の視野から見た時、車道に左側、高さ1.40m(自動車の種類により高さが異なるが、平均1.04mとした)のところから測定した輝度分布については現在でも種々の論文が出されているが、これはむづかしい問題であり、ここでは測定結果だけについて述べる。輝度では蛍光ランプの輝度が一番低く、次にナトリウムランプで、水銀ランプがもっとも高くなっている。ただし、測定器にもっとも近い1灯だけはナトリウムランプの場合、発光管を直接測定するのに対して、蛍光水銀ランプは外管を測定するためナトリウムランプの方が輝度は高い。このような位置に光源がある場合は、まぶしさ帯以外の範囲であるからこれら三者の輝度分布について良い光源から列記すると、1.蛍光ランプ、2.ナトリウムランプ、3.水銀ランプの順になろう。
● 歩行による視標確認
視標はランドルト氏環とタコ視標の二種類用意したが、視標確認は前者がはるかに明瞭であった。これは実験に先立ち仮実験で間隙2cmのランドルト氏環が良いと思われたため、これを用いることにした。なお、実験は2日にわたって行ったために第1日目と第2日目で参加者が異なった。したがって2日間とも実験に参加した5名のデータと、それぞれの実験に参加した全員のデータを作成したが、前者のデータの方が大切であるから、5名のデータについてまとめると、ナトリウムランプ、水銀ランプ、蛍光ランプの順に視標確認の距離は小さくなる。
● 煙霧を発生させ、歩行による視標確認
煙霧を発生させた場合の見え方については二通り行った。すなわち、50mで75%の透過率にした場合と、40%の場合である。透過率75%のときの視標の鉛直面照度は各光源とも18lxに、また40%のときはそれぞれ10lxにして実験を行った結果、透過率が悪くなってくると水銀ランプと蛍光ランプは同じような見え方をするという結果がでた。人によってはむしろ蛍光ランプの方がよく見えるようである。
● 煙霧のない場合、自動車(40km/h)の中からの視標
自動車の速度を大きくすると、実際に隊道の照明を行う場合に、昼時間の緩和照明で莫大な費用になる。このように、経済的な理由から自動車の速度は40km/hとして実験した。時速40km/hの自動車の中から視標を確認できる距離は5名のうち運転できるものB.E.Fの3名が運転しながら同様の実験をすると、ナトリウムランプの場合が一番見え方がよく次に水銀ランプ、最後が蛍光ランプといってよいだろう。

6. 総括
煙霧のない場合、視標の見え方はナトリウムランプ、水銀ランプ、蛍光ランプの順であり、煙霧を発生させたときもナトリウムランプが一番見え方は良く、透過率が非常に下がったとき、水銀ランプと蛍光ランプはほとんど同様の見え方をする。各光源の優劣を判定するにはこの他に経済比較を行う必要があるが見え方の点からいえば一番良い光源は三者のうちではナトリウムランプで、次に水銀ランプ、三番目が蛍光ランプといえよう。