第15回工業技術研究会
日時 昭和63年12月6日( )午後 時〜 時
場所
出席者数 名
情報交換
講演 ”釧路地区湿原水の水質について”
濱口 龍司 氏
<要旨>
1. 緒言
釧路湿原は広く泥炭に覆われ、その表層水は褐色に着色している場合が多い。この帯色の主因としては、着色有機物であるフミン酸類や第二鉄コロイドの影響が考えられている。
本研究は釧路市近郊の着色した湿原水(泥炭地水)を化学分析し、その特性を明らかにしようとしたものである。
その目的のために、調査結果の解析にあたっては、一部多変量解析法の中のクラスター分析を用いた。多変量解析法は各地方の河川水などの水質の解析によく用いられるようになってきたが、湿原水の解析に用いた報告はあまり見当たらないようである。
釧路近郊の湿原水について、今回は主として平均的水質を統計的に処理して、その特徴を明らかにしようとし、若干の検討を試みた。
2. 実験
調査項目および実験方法は透視度、水温、pH、DO、COD、DOD、硬度、塩化物イオン、第一鉄イオンおよび全鉄(T−Fe)はJIS法により、またフミン酸は吸光光度法により分析した。
さらに一部の試料については紫外吸光度も求めた。
3. 実験結果および検討
各調査地点における測定結果から測定値の項目間の相関関係は第1鉄イオンーT−Fe、CODーフミン酸、CODー紫外吸光度およびフミン酸ー紫外吸光度は正の高い相関を示した。
● クラスター分析
相関係数行列を用いてクラスター分析を行った結果、BODと塩素イオン、およびCODとフミン酸、DOなどは同じクラスターを構成しているが、BODとCODは別のクラスターに分類されていた。
有機汚濁指標項目であるBODとCODが別のクラスターに分類されたことは、その挙動に違いがあることを示し、湿原水の特色の一つを現しているものといえる。次に全測定試料のうち半分については紫外吸光度を測定したが、それらにつきクラスター分析を行ってみると、クラスターの階層的構造は余り変わらないが、紫外吸光度はCODやフミン酸と高い相関を示し、ことにCODとは相関が高いことが分かった。
● 湿原水の特徴
湿原水は平均21の高いCOD値を示す。一方BODの平均値は1.7である。生活環境保全に関する環境基準によれば湖沼は、CODにより分類され、これを適用すれば一見類型C以下の甚だしい汚染となるが、一方、河川水はBODを基準とし、これによれば、類型Aに相当する。人為的汚染であれば、CODが高ければBODも高く相関性がある場合が多いが、湿原水はそれがないという特徴がある。
さらにBOD/COD比の値を求めると平均値は0.10となる。
この比は産業廃水の1.66、農場区域廃水の3.9、酪農廃水の13、下水排水の3.4 隅田川の0.6〜6.5などよりも著しく低い値となっている。一般に人為的汚染水はこの比が高い値を示すが、本研究の場合は阿寒川水系の湿原水の0.14よりも低い値を示している。
これはCOD値がBOD値に比べてかなり高い値であることから生じたものであり、人為的汚染によらない湿原水の特質を示しているものと思われる。すなわち、フミン質はCODに大きな寄与を持ち、釧路湿原由来のフミン酸のCOD換算率は0.7に相当した。これに対し、フミン酸は微生物による分解をうけ難いようでBODに対する影響はCODに比べると非常に少ない。
また湿原水は第1鉄イオンを比較的多く含み、それに関連してDO値がやや少ない。
以上のような事から、湿原水の人為汚染について検討する場合には、BODあるいはBOD/COD比に着目すべきであろう。
4. 結び
釧路地区湿原水を分析し、その特徴を明らかにした。
まず、多変量解析法のクラスター分析により、各分析項目間の関係を解析した。
CODはフミン酸、紫外吸光度と高い相関を示す。
しかし、有機汚濁指標項目であるBODとCODは別のクラスターを構成し、その挙動に違いがあることが分かった。
次に湿原水は高いCOD値を示すが、BOD値は低い。これはフミン酸がCOD値に多大の寄与を、一方BODへの影響は極めて少ないためで、これが「自然水」である湿原水の特徴である。
またBOD/COD比が極めて低いのも同様な原因である。したがって湿原水の人為汚染を考える場合は、COD値よりも、BOD/COD比を参考とすべきである。
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