第9回工業技術研究会
日時 昭和62年12月8日( )午後 時〜 時
場所
出席者数 名
情報交換
講演 ”地域エネルギー開発利用熱供給事業の一事例”
阿部 任 氏
<要旨>
1. はじめに
夕張市の「叶ホ炭の歴史村観光」の事業の一端として、昭和59年春より熱供給センターが操業を開始して、早四年目を迎えている。その間円高ドル安、石油価格の下落等、低品位炭利用による熱供給事業にとって周囲を取り巻く環境は必ずしも有利に推移はしないが、需要の拡大(利用施設の増加等)もあって、今日に至っている。
今回は、その事業の内容と施設の概要及び特長等について説明する。
2. 一般概要
本事業は昭和56年、丁度国策として「エネルギー転換」が強力に叫ばれていた時期から企画検討が開始された。国内でも代表的な産炭都市としての夕張市が、市役所、市立病院、市民会館、及び「叶ホ炭の歴史村観光」の諸施設の「熱エネルギー源」を輸入石油に依存する不合理さを何としても、打開したいとの念願の上に立っての検討であって、その結果、総延長約3.7kmにおよぶ配管群の布設を実施すれば、主要施設がすべて網羅されることが判明した。
また幸いなことに、この配管網のほぼ中心位置に廃缶のまま残置されていた水管ボイラが2缶あり、その主要部(圧力容器部)は極めて良好に保存され、将来長期に亘り、十分使用可能であることが判り、このボイラを復活使用することとした。
また燃料としては、炭鉱より産業廃棄物に類する産炭地特有の「低カロリー炭並びに選炭スラッジ ・ 廃坑木」等の「ローカル色」豊かな未利用資源が副産されている。
この種の燃料を用い、有効に燃焼させ得る燃焼機構の選択、復活缶の構造を安価に、かつ上手に活用する方法が一番の課題であった。種々検討の結果、低カロリー燃料を燃焼させるために「傾斜波動型」ストーカーを採用することとした。本装置を水管ボイラに組込むのは初めてのことである。
3. 使用燃料について
● 構成内容
(1)選炭スラッジ(脱水ケーキ)
炭鉱の選炭工程における最終廃棄物であり、選炭排水をシックナーにかけ沈殿汚泥をフィルタープレスで脱水し、ケーキ状に固め投棄していたものである。
(2)市販不能微粉
市販銘柄がなく、山焚処理または、山元自家発電用にも使用困難な下級沈殿粉炭等である。
(3)廃材チップ
閉山過疎化対策として推進中の炭鉱廃屋解体に伴う廃材及び稼働炭鉱より発生する古坑木等の回収廃材をチップ化したものである。
● 混合燃料の特徴
着火及び燃焼速度の早いチップ材を、高含有水分で着火の遅い低カロリー廃棄物に混入することは、燃料の助燃剤的役割を発揮すると同時に発熱量の変動が大きい選炭廃棄物を使用する混合燃料の品質安定を計る有効な組合せとなる。
また、脱水ケーキはボイラに投入する前に一度解砕過程を経なければならない。しかし解砕後缶前ホッパに搬送し、ストックすると再凝固し、極めて前処理に難行することが判明している。この意味で解砕混合時にチップ材を混入することは、再凝固防止に大きな効果をもたらす。
4. 復元ボイラについて
ボイラ型式 水管式傾斜浮動ストカー付ボイラ
(改)CD150型 (改)HN300型
実最大蒸発量 4,000kg/h 8,000kg/h
伝熱面積 156.9m2 315.4m2
最高使用圧力 7kg/cm2
常用圧力 4kg/cm2 飽和151° C
使用燃料 前記混合燃料
蒸気用途 暖房用(第1図参照)
蒸気使用量 22,000t/年
燃料消費量(湿燃料ベース) 1,540kg/h 3,080kg/h
公害対策
Nox : 1次燃焼が還元雰囲気であること、また廃材チップを混合することなどから250PPM以下とする。
Sox : 燃料中の硫黄分が極めて少ないので、得に考慮を要しない。
煤塵 : バグフィルタ2基を設置して規制値以下とする。
5. 設備の特徴について
● 燃料供給システム
(1)燃料の種類とボイラ室のスペースの関係より、燃料受入払出方式をピットアンドクレーン方式とし、払出には、油圧式グラブバケット付天井クレーンを採用した。バケット容量は3T未満として無資格者が運転出来るものとし、バケットは湿分の多い粘着し易い燃料をかき落とせるスクレーパー付とした。
(2)ピットに受け入れたスラッジ、微粉及び廃材チップを、バケット付天井クレーンで、スラッジ ・ 廃材チップ用及び微粉用の2基のサービスホッパーに投入し、これらホッパーボトムの移動式切り出しスクリューによりベルトコンベヤーに切り出す。
燃料の切り出し量はスクリューの回転数を自由に変えることで核燃料の混合比率を変化させ、ある程度のボイラ負荷に適応した発熱量の燃料を供給することが出来る。
(3)ケーキ状で搬入されるスラッジを使用するためには、解砕工程をシステムの一環として取り入れることは、不可欠な条件であり、同時に特徴である。それだけに粘着性の大きい脱水スラッジの解砕には、特殊な解砕機を選定している。又、解砕時の廃材チップの混入も粘着性緩和のための一つの目的であり、微粉との混合は傾斜搬送ベルトコンベヤ上で行うことが出来る。
(4)燃料ピットよりサービスホッパーに投入するクレーン操作を除き、サービスホッパーのスクリューによる切り出しより搬送ベルトコンベヤまでの燃料系統は缶前ホッパーのロードセルによって自動運転が可能である。これらの装置は4t/hrボイラ及び8t/hrボイラの共有設備となっているため、ロードセルからの信号により、缶前上部の移動式可逆コンベヤで供給方向を変え、必要な缶前ホッパーに投入されるよう制御される。
● ボイラ燃焼機構
ボイラ燃焼機構として「傾斜波動ストーカー」を採用している。
この「傾斜波動ストーカー」は汚泥焼却炉やじん介焼却炉に多くの実績を持ってはいるが、従来ボイラの燃焼装置として使用されたものはなかった。低品位炭燃焼の場合、空気過剰率がどうしても多くなる上、燃焼過程で揺動撹拌機構が、空気との接触、クリーンカ破砕に極めて満足のいく結果を得ている。更に、新たに気付いたことは、「Nox」の発生が極めて少ないことであった。以前よりストーカー燃焼方式は微粉炭燃焼方式に比較して「Nox」の発生は少ないと云うことであったが、まさしく実証することが出来た。
又、ばいじんについてもストーカー上の燃焼であるので、発生するばいじんの大半が炉内で回収される。即ち飛散ばいじん処理が極めて容易である。
「Sox」については道内炭の場合、0.2〜0.3%程度であることから特に脱硫の必要はない。
負荷に対する応動性については、揺動操作にタイマー並びに揺動角度の変化機構を入れることにより十分調整可能である。
● 大気汚染防止対策と結果
低品位燃料の混合燃焼のため、特に集塵装置については留意した。この種のボイラとしては初めて、バグフィルタを採用した。本装置にはろ布保護のため、フィルタ入口排ガス温度を常に適当な範囲(120°C〜180°C)に維持するための熱交換方式による排ガス冷却装置を具えた。
● インフラホンの採用
従来、水管伝熱面の外側に付着する煤や灰を払い落とし、熱伝達効力を維持させる方法として蒸気噴射式煤吹装置が一般的であるが、今般集塵装置にバフフィルタを使用した関係上、従来型式のストーブローでは排ガス中の水分含有率を高めるため、新しい試みとしてインフラソニックブロワー装置を採用した。この装置は圧搾空気により低周波を発生させ、共鳴管を通して炉内水管群及び熱交換器へ一定の音圧振動を作用させて、伝熱面をクリーニングする方式である。
● 省エネ対策
事業の推進に当たってランニングコストの問題は重要な要素である。勿論、燃料費の占める割合が大半であることは言うまでもないが、人件費及び動力費等の軽減による影響も見過ごすことが出来ない。
そのため、燃料の代替ばかりでなく、多くの機器装置を備える本設備には、自動化及び省エネ化を出来るだけ取り入れる配慮がなされている。
(1)電力諸費の削減 : 一部の装置に、周波数変換による自動負荷追従運転をさせ、必要最小限度の動力供給に止めている。
例えば、2台の同容量のボイラ給水ポンプの場合、ボイラ2缶の共用になっているためボイラ負荷に適合するよう、回転制御と稼働台数を自動的に選定する制御システムを組込んでいる。
(2)損失熱量の回収利用 : ボイラより発生する熱エネルギーのうち、蒸気として有効に利用される以外の損失熱をより多く還元又は再利用することは大きな省エネにつながる。本設備にも次のような配慮がなされている。
(a)エコノマイザ、エアプレヒータを整備している。
(b)エアプレヒータは2段式とし、排ガスで室内空気を加熱し、一部は燃焼空気として炉内に還元し、一部はボイラ室内暖房、その他に利用している。
(c)自動缶水ブロー装置の冷却水としてボイラ給水を利用し、熱回収を行っている。
(d)過剰空気抑制のためストーカーエンドは水封式とし、水封レベルを電極棒により検出し、水封用ポンプを自動運転している。
(e)バグフィルタスチームトレース後のドレーン等を屋外貯水槽に導き冬期間の貯水凍結防止に役立てている。
(f)各施設への供給蒸気配管中に必要な多くのドレントラップはすべて省エネタイプのものを採用している。
(3)変動負荷の軽減 : 熱供給事業の宿命として一日の中で大きな負荷変動がある。即ち夜間負荷は病院、ホテル等を除き、供給熱量はほとんど0となって、最低に絞ることになるが、各事業所が開かれる朝より午前中には最大負荷となる。又1週間のサイクルで見ると、土曜日の午後から日曜日にかけて低負荷となり月曜日の朝がピークとなる。このような負荷パターンをあらかじめ記憶しておいて、夜間低負荷時にボイラ室内地下給水タンク内にあらかじめ蒸気をブローして給水加熱を行って、ピーク時のボイラ負荷軽減の一策としている。
また、冬期と夏期では暖房負荷に大きな変動が現れるのは当然のことで、夏期には小容量缶1缶のみの運転に切り換え、更に夜間には埋火を行いボイラドラム内の圧力保持のみを行って、朝にそなえる等低負荷の連続対応を行っている。
● 異常事態での対応策
熱供給事業として何時如何なる場合でも供給先の需要を満たすだけの熱の供給を行う義務があり、この対応策として予備ボイラ及び助燃バーナを設けている。
即ち石炭ボイラのストーカーまたは灰処理系統の故障時には、別置の8t/h重油ボイラを稼働することが出来、更に4t/hの蒸気発生量に相当する灯油バーナを石炭ボイラに併置して異常事態を乗り切る体制をとっている。
更に、電力供給系統を北電系統と北炭系統の2系統を取り入れ、1系統の故障時でももう1系統を活かした運転が可能である。
6. 夕張熱供給の実状
59年春より施設の運転を開始し、翌々61年度よりは燃料及び給水を含む一括運転管理を外部に委託して運営を行っている。
一方、需要先では個々に蒸気流量計を取り付ける等して、未使用状況を把握し乍ら省エネに努めている結果、蒸気の供給量は年々横ばい状態となっている。
(1)スラッジ及び微粉と A重油の使用量が年々異なっているのは、スラッジと微粉の配合率を種々変えて最適条件を求めていることと、夕張周辺で入手出来る微粉の炭種を種々取り入れた事によるものである。
(2)A重油の使用量の変動も付属機械の修理時、又は厳寒時期の立ち上がり時の追焚に重油ボイラを運転したためである。しかし、廉価な低品位炭を焚くよりはコスト高となるので、今年度は特にこの点検に留意して、極力おさえることにしている。
(3)運転要員は冬期間1直2名、3交代とし、交代要員2名及び所長1名計9名とし、夏期には1缶運転になることから1直1名とし、残りの人員はボイラの整備工事に当たっている。
(4)蒸気単価は需要端で蒸気T当たり\8,800円、1,000Kcal当たり約\14円
燃料費、運転諸経費、消却費及び公租公課、一般管理費等を加味してまず妥当な価格と云わねばならない。
(5)これらの実績は単に暖房熱源として供給している場合であり、同様方式で、施設園芸ハウスの熱供給システムに組込まれている例もある。
何れも低廉な低品位炭の安定確保がポイントであり、重油価格の今後の推移が大いに気になるところである。
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