公益社団法人 日本技術士会北海道本部

第8回工業技術研究会
日時 昭和62年10月1日( )午後 時〜 時
場所 
   
出席者数  名
情報交換
講演 ”熱風による粉体乾燥機の諸問題と事例”
        技術士 栗林  益美 氏


<要旨>
まえがき
化学薬品、肥料、木粉、鉱石などの粉体を熱風乾燥する場合の諸問題を主として回転乾燥機を中心として述べると共に、筆者の経験した他型式の2〜3を含めて事例を紹介する。

1. 連続熱風回転乾燥機設計の基礎式
Q=ha ・ V ・ Δtlm
V=Q / (ha ・ Δtlm)
Q :  伝熱量 [Kcal/hr]
ha : 熱容量係数 [Kcal/m3 ・ hr ・ °C]
Δtlm : 加熱に風と材料の対数平均温度差 [°C]
V : 乾燥機容量 [m3]
乾燥機設計とは基本的には容量を決定することになる。
熱風の温度条件は物資によってきめられるから、容量Vを決定する最大の要素は熱容量係数haである。

2. 乾燥特性曲線
● 限界含水率 : Wc
恒率乾燥から減率乾燥に移行する境界の含水率である。
乾燥物質の到達含水率がWcよりも低くなると乾燥機は急激に大容量が必要となる。
同一の粒状材料でも、堆積状態では値が大きくなり、粒子が分散 ・ 小径であれば小さな値となる。従って条件が許されれば、なるべく撹拌状態で乾燥することが望ましい。
● 平衡含水率 : We
材料は熱風の圧力、温度、湿度が定まると、それに対応する一定の含水率となる。その値を平衡含水率(We)と呼ぶ。
除去できる水分は平衡含水率までであり、それ以上に乾燥した材料は、吸湿して周囲条件下の平衡含水率まで水分が戻ることになる。

3. 乾燥機容積計算
V=VT+VU+VV
V : 必要全容積
VT : 予熱期間の必要容積
VU : 恒率乾燥(表面蒸発)期間の必要容積
VV : 減率乾燥期間の必要容積
VTとVUは熱及び物質収支から比較的容易に計算できる。
VVは水分蒸発と材料の温度上昇が行われる部分であるから複雑となるが、適当な仮定を置いて計算する方法が桐栄により発表されている。
筆者も粉体転動造粒化成肥料の乾燥機設計にこの手法を応用して好結果を得た経験がある。

4. 実績ha値の利用
新に乾燥機を設計する場合に、実際の同型の乾燥機で必要水分まで乾燥した実績があれば、これから実績の総括haが求まるからこのhaをスケールアップ修正して乾燥機容積を求めることが出来る。
この場合は複雑な減率乾燥計算は必要ない。基礎となるha値は必要水分まで乾燥したデータを用いることが大切である。

5. 熱風回転乾燥機のスケールアップと熱容量係数
● 熱容量係数
haの計算式には種々あり、Kの中味も文献によって多くの要因を包含しているが、最大公約数的要因をとり上げる次式のようになる。
ha=K ・ Gn / D
K : 定数ではない。研究者によって採用している要因群
D : 乾燥機内径 [m]
G : 熱風の質量速度 [kg/m2・r]
n : 指数で研究者によって0.16〜0.67の範囲がある。
但し、Kの中味については十分吟味し、haが大きくなるような考慮を払うべきである。
● スケールアップの方法
内径が小さくなればhaが大きくなるということから中仕切りを設ければ能力が増大することになるので、内部付着トラブルなどの問題がなければ有効な方法と思われる。実例としては(株)大川原製作所のハニカムロータリードライヤ等が見られるが、筆者として実証はしていない。

6. 乾燥機の事例
● 木粉用回転乾燥機
木粉は細胞材料に属し、限界含水率が高いのでできるだけ粉砕するか、転動撹拌によって粒子の分散をすることが必要である。
[事例] 材料(木材粗砕品) : 9m/mアンダー100%、平均粒径1.1mm
限界含水率 : Wc=0.3kgH2O/kgDM ※1
水分(全水分)入口 : 45% (含水率0.818gH2O/kgDM)
   〃    出口 : 7% (含水率0.075gH2O/kgDM)
この材料を乾燥する通常の回転乾燥機の能力が出ないということで、解析してみたところ現設備の容積が必要値の約1/2しかなかった。
原因は限界含水率以下に乾燥するという条件を十分に加味していなかったことによるものである。
一旦、設備した機器の能力アップは仲々難しいが、現場的には色々試行してみることも必要である。
大きな改造投資をせず、且つ操業停止損失を最小に抑えるという条件下では、例えば次のようなことが考えられる。
(1)熱効率を多少犠牲にして出口ガス温度を上げる。
(2)材料の機内滞留時間を長くする工夫。
(3)機内加工により分散強化、あるいは前述8. で述べたように中仕切による見かけの内径を小さくしてhaアップを計る。
本例は普通の回転乾燥機の例であるが、新たに計画する場合には同じ回転型ではあっても、牧草用の内部多回路型とか他の各種の形式の適用についても比較検討すべきであろう。
但し、回転乾燥機は運転が容易で安定しているので、条件が許されれば多少余裕のある大きさのものを設備した方が余計な神経を使わないで済む。
● 回転乾燥機の乾燥制御(出口熱風温度制御)
Q=ha・V・Δtlm
より乾燥度(出口水分)を制御するためには、ha、Vを一定とすればΔtlmを変化させればよい。入口の熱風条件は物質によって予め決められることが多いから、出口の熱風温度を制御すればよいことになる。(品温は決められた乾燥条件下ではあまり変化はない)
実際に自動制御においても、出口の熱風温度をある一定値にコントロールすることにより安定した乾燥物を得た経験がある。
乾燥を強化するには出口熱風温度を上げればよいが、排ガスの熱損失が増加するので省エネルギー、経済性からみて好ましくない。このことは、乾燥機の容量不足か処理量過大を意味することになる。
● 向流から並流にして問題解決(パドルドライヤの場合)。
向流乾燥は熱安定物質の乾燥に適するということから、ある無機化学薬品(弗素化合物結晶)を約300°Cの熱風で向流撹拌乾燥を行った。
製品は、サラサラの結晶粉が必要であったにも拘わらず最大50m/mφまでの塊状物が多量に混入した。
これを篩分け粉砕をしなければ品質規格に合格しない。更に困ったことは、製品納入遅延でユーザーに迷惑をかけることであった。
そこで、ふとした発想から向流方式を並流乾燥に変更した。
これにより一挙に問題が解決し、塊状品はなくなり、サラサラの結晶が得られた。勿論篩分け粉砕などの追加投資も不要となりユーザーにも迷惑をかけずに済んだ。
メカニズムの解明はしていないが、現場的解決例として参考に供する。
● スプレードライヤーの内部付着防止
燐安系肥料溶液を回転円盤によりスプレー乾燥したが、設置の初期に円筒下部及び円錐部に付着堆積してクリンカー状となり、長期安定運転が出来なかった。これを機械学会誌文献紹介記事から情報を得て改造し、見事に問題が解決した例を紹介する。
改造前は熱風が接線流の外に上部円板部から吹き込む構造であった。付着堆積物は大量で定期の処理作業は大変な重労働であった。
これを上部全面吹き出し式に改造したところ付着堆積がなくなり、長期運転が可能となった。
● 乾燥機排ガス湿度によるサイクロン収塵効率向上
粉体を熱風乾燥する場合、必ずダスティングが発生するので収塵が必要となる。
ある砿石微粉を回転乾燥機で乾燥した例を紹介する。
処理量約20t/hWB、水分10%→0.2%の並流乾燥において、排ガス温度をガスの露点(※2)+(5〜10°C)に維持することが、製品の水分規格0.2%以下を満足し乍らサイクロンの収塵効率を最高にする条件であることがわかった。
本例では、乾燥機出口熱風の温度を上げると製品水分は低下するが、ダスティングが増加し、サイクロンの収塵効率が低下した。
従って、系全体の製品損失が増加した。
排ガス温度を高温から露点+(5〜10°C)に下げていくに従ってダスティングが減り、且つサイクロン効率も向上した。
ガスの温度が粉塵の凝集性に影響するためと考えられるが、温度調整によるサイクロン収塵効率の向上と、材料の過乾燥を防止し乍ら乾燥目的を達成した事例である。
● あとがき
熱風による粉体乾燥の諸問題と事例を述べたが、先端技術の時代と言われる今日でも乾燥は常に生産工場の基礎技術として多用され、コストに占める比重が大きい。その工学的理解を深め適正な設計と工程 ・ 設備の改善などに努めたいものである。
本文が現場技術者にとって参考になれば幸いである。