第7回工業技術研究会
日時 昭和62年8月4日( )午後 時〜 時
場所
出席者数 名
情報交換
講演 ”随道工事における岩石屑と廃棄場付近
小沼の水質異状化の問題点について”
函館開発建設部 大沼道路改良事業所
所長 菱川 幸雄 氏
<要旨>
大沼湖群の主なる湖沼は大沼、小沼、蓴菜湖であるが、小沼の南西隅にあるいわゆる大沼学園の前面付近に廃棄された岩石屑のため、昭和37年8月頃において水質の異状(酸性)を示した。これについてその後の調査により、この付近の地層を形成する石英粗面岩中にたまたま硫黄を含んでいる事に基因することが判った。これは、廃棄岩石屑中の酸化物が硫黄となり、漸次沼水中に溶散したのである。
この結果から含硫黄屑の酸化防除のための処置を講じた。
●水質の酸化性と生物障害について
火山地帯において硫黄、硫化鉄あるいは褐鉄鉱床の存在することは極めて自然であって、また、これに附随して硫酸々性水を排出していることも一般的である。北海道においても、釧路弟子屈町川湯硫黄鉱山等における硫黄採掘とそれに伴う酸性排液、また、札幌市外豊羽鉱山等における坑内排水として排出した硫酸々性水、そして洞爺湖畔硫化鉄鉱山等における硫化鉄の風化、湿潤化によって褐鉄鉱を作るかたわら排出する硫酸々性水等水産障害を起こしている例も多い。
また酸と生物障害については、毒物が植物に対する障害と動物に対する障害の様相は多少異なるが、ここでは動物障害に限定し、魚の障害の問題では、いわゆる毒物のように微量で神経障害を起こしたり麻痺したりするものと、一般には必要成分でありながら濃度が高くなって障害するいわゆる激物とも称せられるものもある。また、2種類の毒物が入って毒性が強くなったり、種類によって却って弱くなったりする場合もある。
●小沼の生産と酸性化による影響について
小沼水塊のみに限られて取り扱われる問題と思う。流酸々性水によって悪影響を受けたものは次の通りと考えられる。
(1)魚の餌料となっているプランクトンは無くなった。
(2)魚は餌料不足となったために漁獲しても利用価値を失った地域がある。しかし、酸性水は漸進的の拡散であるから魚は逃避し、あるいは小区域に押しつめられたものもあるだろう。
(3)水草地帯のある部分は悪化し、天然産卵場を喪失した所 もあるだろう。
(4)もし汚染地域内に魚捕獲の定置場所を持っていて、これを行使していた人があったとすれば、その利権を失うことになる。
●硫黄含有屑に対する処置について
Pyrlte(FeS2)の酸化についても前述したように、鉱床または廃棄岩石屑から分解排出する硫酸性物質は長年月の間溶出する。アメリカ石炭の80〜90%を生産するペンシルベニア州では、瀝青炭地層の接触した屑に硫黄化合物の含量が高く、それから分解排出する硫酸性物質に悩まされており、この排水はオハイオ川に入るため同河川を利用する下流沿岸の諸州では、これの防除に苦心している状態である。この地方の外部から侵入する表面水は全部アルカリ性であるが、これが石炭層の破れ目を通って、そこに酸化しつつある硫黄化合物を溶かし出して、全部強酸性水と変わって排出しているのである。そこで、坑内容量と排水量に等量の液体アンモニアを坑内において拡散中和を行ったが、全く効果を現さなかったということである。例えば、石灰による中和についても研究されているが、生成する硫酸を中和するには、ペンシルベニア州全体の産出量を充てなければならないし、硫酸石灰が出来て水質の硬度を高めることがかえって悪結果となる原因ともなっている。しかし、最も効果を現しているのは露天掘における屑の処理であって、石炭採掘後直ちに屑を跡地に埋め、覆土し、その厚さ、侵入水の排除方法などを規定に従って施行している状態である。覆土によって硫黄化合物の曝気に基づく酸化を防ぎ、侵入水をなくして硫黄塩と硫酸の生成を防除しているということである。しかし、最近群馬県草津温泉から流れこむ利根川上流の吾妻川を中和する世界初の中和工場が草津町に出来上がり、そこから石灰乳剤を流し込み、酸の度合いが変化すれば放出乳剤量を自動調節し、原料石灰はアセチレンガス工場などの廃材を使っているから安上がりである。このため川も生き返り、ウグイ魚の姿も見られ、地元民を喜ばせているとのことである。このような例はあるとしても相当量の石灰分が必要である。
あとがき
大野平野潅漑排水事業に伴う大沼湖群水質と漁業障害の問題について調査中、たまたま小沼南西隅の学園前に廃棄した屑によって、周辺の水塊に硫酸々性を生じた。これは硫黄粒点在の岩石が酸化、湿潤化をきたしたことによって岩石屑中の硫黄が硫酸及び硫酸塩に分解溶出した結果であって、小沼の水塊中にあるプランクトンを滅死せしめたのである。第1回(8月)の調査でこの事態を発見し、直ちに防除工法を施行したため、2ヶ月後の10月第2回調査では水塊の酸性が減退したのである。PH4.0〜6.0という影響のもたらした水産上の障害は、時期的に強い障害を受けたワカサギ及びエビに止まるだろう。これは今後の補償問題及び事後処置に幾分なりとも役立つものと期待される。
|
|
|