公益社団法人 日本技術士会北海道本部

第6回工業技術研究会
日時 昭和62年6月2日( )午後2時〜5時
場所 
   
出席者数 名
情報交換
講演 ”河川高水敷の利活用と管理”
潟Aルファ技研 代表取締役
潟Aルファ水工コンサルタント 代表取締役会長
        技術士(農業) 谷本 彰 氏

<要旨>
河川は、生活に密接な関係のある水資源に深く関わり、社会の発展に寄与するところ大であります。
河川敷地は高水敷を含めて、古くから関係ある地先の住民に、使用目的が適当であれば条件付きで使用を許可し、貸付を行ってきたことは誰もが承知していることであります。
近年は、管理上支障のない限り市民生活にも開放(ーと言う言葉が適切か否かは別としてー)されて、公園施設 ・ スポーツとかレジャー施設その他等々、多目的に利活用されていることは、誠に喜ばしいことであり、更に未処理の高水敷を、生産の場としてより積極的に利活用できる足掛かりとしたいと考えるのであります。
● 生産型利活用について
高水敷の内、その地先の農家又は団体の申請を受け、条件付きで農用地等として貸し付けられ、それが生産の場として使用されていることは前述のとおりであります。こうした農業生産の場としての面積は決して少なくなく、北海道での河川敷地利用の80%余りを占めております。
ここでは更に一歩進めて、都市 ・ 郊外型利活用以外のほぼ全域を、河川としての環境 ・ 景観を損なわずに整合性のとれた形で、生産の場として利活用してはと提案するものであります。
幸いにして、高水敷の土壌は概して肥沃で、草木の成育に最適に近い条件を備えていると言ってもよいのではないでしょうか。植生する草木は刈取り伐採除去しても、次々と生い茂り始末に困る有様です。
● 雑草堆肥の生産として
ここ数年来、有機肥料としての堆肥の必要性 ・ 有効性が、強く叫ばれ始めております。
そこで、有機肥料としての堆肥を高水敷の雑草を使って生産し、自前で堆肥を作ることのできない農家に提供する方法です。
また、堆肥生産の場としての用地が必要ですが、出来れば接近した堤内の河川敷地で未処理用地でもあれば最適でしょう。
● 堆肥醗酵熱 ・ メタンガスの利用
堆肥生産の過程で発生する醗酵熱は、最高70°Cの高熱を期待することが出来ることと、同時にメタンガスも発生するので、このエネルギーを巧みに利活用するようなシステムを開発すれば、更に一段と有効な成果を得ることになりましょう。
例えば、ハウス栽培への熱エネルギーの供給は果菜とか花類の生産で付加価値のある収入を約束できる可能性もありましょう。
● 木炭の生産
これも第一段階として直ちに生産に結びつく考えの一つであります。木炭生産の為の植生場所を適当に、しかも計画的に指定しておくことにより、恒常的に一定量の生産が可能となることでしょう。高水敷に植生している雑木(主として柳)を伐採して、木炭を生産する発想であります。
成長の早い木は得てして質的に柔らかく、木炭とは言え燃料としては不適当ですが、これらはチップ状に粉砕して、土壌改良剤として使用します。成長の早い木の組織は粗であり、木炭としても孔隙が多いと言えましょう。その孔隙には水分が適当に保留される反面、過多な水分はあっさりと排除流下させますから、この種の木炭チップが混入されている土壌は、適度な湿り気を保ち、しかも排水がよく有効菌の発生を促進しますから、地温が高まるでしょう。即ち、木炭が適切な土壌改良剤と言える根拠であります。
● 雑木堆肥 ・ 飼料の生産
伐採した雑木をチップ状または圧砕して、醗酵させて堆肥とするか、家畜、特に牛の飼料とするのも、有望な製品化の一方法です。
処置に困っていた製材工場の樹皮が、バーク堆肥またはバーク飼料として活用されていることはご周知のとおりであります。
高水敷に植生する雑木は、大きくならないうちに伐採除去する必要があるわけですから、木の組織としても若く柔らかいので、特徴ある新しい製品が生まれる可能性があります。
● 土木資材への利用
暗渠排水工事で埋設管の被覆材として有効適切な資材とされ、需要が多いと言われております。
粗朶類が以前のように土木資材として復活し、採取し易いような場造りによりコストダウンができれば、以前のように需要度が高まることが考えられます。
● 工業製品原材料への雑木の参入
東北林業試験場で、白樺を生産価値の低い従来の白樺チップ(25/円)ではなく、同じ白樺を原材料として新しい付加価値の高い製品の開発に乗り出し、見事成功した事例が報告されていました。
高水敷に植生する柳類にも粗朶のような幼木を含めて、思わぬ製品の開発が可能になるかも知れないと、技術開発に大きな夢を託するのであります。
● 飼料としての牧草の生産
広大で平坦に近い高水敷を草地に改良造成して、生産される飼料を主として本州方面の畜産農家に供給します。
● 生産型利活用による改良効果と管理
高水敷は、
1) 概ね平坦であることから、草地にしても改良造成費用が安いこと。
2) 冠水が決定的被害とはならず、寧ろ冠水することによって適当に肥料分が供給されること。
3) 牧草の種類を適切に選定することによって、草根がマット状に形成され、高水敷を装工保護する形となること。
4) 生産の場とすることによって、必然的に雑草 ・ 雑木の雑多な繁茂を抑止し、環境 ・ 景観が改善維持されること。
5) これ迄のように特に雑草 ・ 雑木伐採除去の為の管理費用が要らず、管理費の節減になること。
6) 小規模ではあるけれども関連産業が誘発され、地域の発展に寄与する可能性があること。
7) 雇用、特に高齢者の働く場に適していて、生き甲斐と健康に資することができること。
等々、考えられる利点は数々あるものと思料されます。
このように河川 ・ 農業 ・ 林業の各分野の専門技術者の参加と、関係市町村の協力の下に、一体となって努力することが必要でしょう。