公益社団法人 日本技術士会北海道本部

はじめに

 「倫理」が持つ語感にはどの様なものがあるだろうか? 人としての道、人に対して良いこと、悪いこと、道徳等の言葉が思い浮かぶ。具体的には道徳教育、武士道や論語、儒教の教え等が思い浮び、現代の我々には無縁の言葉と感じる人が多いのではないでしょうか。

 この要因には、現代の我々はグローバリゼーションの最中にあって個人主義、他人不干渉が良しとされ、結果としての核家族化、少子高齢化が進み「人と人のふれあい」や「思いやりの心」が萎縮してしまったことが考えられます。

 バブル崩壊の2000年前後頃から組織が起こした不祥事が続出しました。東海村原子力臨界事故、雪印食中毒事件等々があり、企業倫理が新聞紙面を賑わしましたが、技術を担当する技術者への非難は少なく、企業内技術者として何をすべきか戸惑った技術者が多かったのではないでしょうか。

技術者倫理の必要性

 技術者は「安全・安心、健康、福祉、持続的発展」等の技術やそれに関わるリスクを熟知して業務を行わなければなりません。一方、一般の人達(公衆)は技術の内容は知らないが、その技術・サービスを受けて快適で安全な日常生活を送っています。そして、その代償として技術者は世間からそれなりの高い社会的地位や報酬を受けることを認められています。これが日常における公衆と技術者の姿であります。

 この様なお互いの利益や恩恵を維持するために、我々技術者は自ら厳格な倫理規範を定め、一般の人達(公衆)に技術者の決意やあるべき行動の姿を説明し、また、ことある時にはその説明責任を果たす義務を負うことになります。

 技術者倫理は一般の人達(公衆)に信頼される技術者になるための必要条件なのです。

委員会の活動方針

 倫理的選択をする場合に色々な障壁があります。誰を対象にするのか、自分は如何なる立場で考えるのか、生じるであろう社会的慣習との軋轢や人間関係における確執等々です。

 その1つとして、我々は業務を行う場合3つの立場を持っています。1つ目は組織人として組織の利益を確保する立場、2つめは依頼者の代理人としての依頼者の利益を確保する立場、3つ目は個人の信念と良心に基づいて行動する立場です。この3つの立場はトレードオフの関係にあります。もし、由々しき事態になった時、この3つの立場のどの立場を重要と考えて行動するかで悩むことになります。

 倫理問題において考えられる障壁を総て満足する選択肢はありません。実際は各々ウェイト付けをして選択肢を探すことになります。

 

 委員会の目的は、会員が倫理的課題の話題提供を行う事例研究やミニ講演会、勉強会を通じて提供された話題に含まれる倫理的課題と障壁を抽出し、会員各自が考える選択肢を探し出し、時には技術職、管理職、経営者の視点も交えながら議論し、「判断のよりどころ」を自分なりに習得できればよいと考えています。

 決して倫理正しき人になることを目的に事例研究をする訳ではありません。事例によっては倫理的選択がベストプラクティスかとの意見があるかもしれませんが、それも状況、立場を考えた時の1つの選択肢かもしれません。

 今後、この様な事例研究成果やミニ講演会、勉強会等の要旨を会報等に発表し広く技術者倫理の啓蒙・普及を図っていく予定です。