公益社団法人 日本技術士会北海道本部

第12回工業技術研究会
日時 昭和63年6月8日( )午後 時〜 時
場所 
   
出席者数 名
情報交換
講演 ”機械要素としての「ねじ」について”

         竹内  靖 氏

<要旨>
1. ねじに関するアウトライン
● ねじの歴史
文献によればアルキメデス(B.C287〜212年)が考案したと云う記録があるが、その紀元はもっとさかのぼり、藤の木のような丈夫なつるに巻きつかれた木の幹が、成長するにつれて巻きつかれない部分が太くなって、らせん状になるのを見て思いついたと云われている。
ねじを工業用として開発したのは、レオナルド  ダ  ビンチ(1452〜1529)で、この時代に青銅と鉄のねじが作られ使用された。
ねじ切り旋盤は、1770年イギリスのラムスデンが発明したが、イギリスのモズレーが(1797年)改良を加えて以来、ねじの機械加工が可能となり、工業のなかでねじが占める位置は急速にその重要性を増してきた。わが国では1543年に、種子島にポルトガルから渡来した鉄砲を鍛冶屋がまねて作ったとき、はじめてねじが作られたといわれているが、1889年(明治22年)池貝鉄工が国産第一号旋盤を作って、本格的なねじの機械加工が始まった。
機素の運動は次の四種類に分けられる。
(a)直線運動 ・ ・ ・ ・ ・ ・ すすみつがい
(b)回転運動 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 回りつがい
(c)らせん運動 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ねじつがい
(d)球面運動 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 球面つがい
ねじの運動は(c)のらせん運動で、機素に回転運動を与えることにより、直線運動ができる限定運動のつがいで、ボルト、ナットなどねじの機素として広く実用されている。
● ねじの特徴と用途
(1)小さな回転力で大きな軸方向の力が得られる (ボルト・ナット、プレス、ジャッキ、万力)。
(2)比較的大きな回転角で、微細な軸方向の移動を性格にできる(マイクロメータ)。
(3)ねじ山の傾きの角度が小さいと、静止した状態で軸方向に力を加えても回転しない(ウォームギア)。
(4)逆にリードが大きい場合は、軸方向に力でねじを回すことができる(砲身を通る弾丸)。
(5)小さなねじ山でも、大きな軸力に耐えられる(アイボルト(クレーンフック止め用))。
(6)おねじ又はめねじを回すと、互いに軸心を一致させるように求心作用をする(角ねじを除く)。
(7)ねじで締め付けた部品は、容易に取付け、取り外しができる(機械要素の締結部品)。
(8)ねじの締め付け、取り外しに特殊な工具を必要としない。
(9)ねじは複雑な形状のわりに加工が簡単である。
(10)ねじのリードを逆方向にさせると、長さを調節できる(ターンバックル)。
● ねじの原理と種類
ねじのリード角に沿って、三角形、四角形など、いろいろの断面のみぞを、みぞとみぞとの間の部分と等しくなるように作ったものがねじであり、みぞとみぞとの間の部分がねじ山、そして、隣り合うねじ山の対応する2点間の距離をピッチという。
一般に用いられるねじ山は1条ねじと云い、1回転で1ピッチだけ進む。
ねじ山は、その断面形状から三角ネジ、台形ネジ、角ネジ、のこ歯ネジがある。
● ボルトとナットの組合せ
ボルト・ナットには、その形状や使用目的によって次のように分けられる。
(a)通しボルト
締め付けようとする両部品に穴をあけ、ボルトを通して、ナットを締め付ける。
(b)押さえボルト
貫通した穴があけられない場合とか、通しボルトでは長すぎる場合など、一方にめねじを切り、ボルトをここにねじ込んで締め付ける。
めねじを切るのには、タップを用いる。機械加工によって切るマシンタップもある。
(c)植込みボルト
丸棒の両端にねじを切ったボルトで、一端を締め付けようとする部品に植え込んで、他端にナットをかけて締め付ける。

2. ねじの荷重とトルク
● ねじ締結体に作用する外力と内力の関係
圧力容器など、ガスケットなどの介材物をはさんで、初めボルトを締め付け、ガスケットに十分圧力を加えておき、そこに内圧力が作用するとボルトはさらに引っ張られ、ガスケットの圧力は反対に減少する。
この状態でボルトの引張応力を許容値以内に保つとともに、ガスケットの押付力も漏れを生ぜぬようにする必要がある。
● ねじの適正締付
ねじ部品を使用する目的は、その締付力により、2個以上の品物を結合することである。しかし、この締付力は使用するねじ部品の強度、被締付物の強度、ねじ結合体に作用する外力の種類、および大きさにより自ら上限値が存在する。
また、この上限値を目標にして、実際のねじの締付作業においては、当然、締付力にはばらつきが生ずることが考えられる。以上のことを考慮してねじ部品の適正締付力を求める必要がある。

3. ねじの疲れと応力集中
● ねじの疲れ
ねじ締結体に繰り返しの外力が作用する場合は、平均応力と変動応力による疲れ限度のふたつの要素を考慮して、ねじを安全に設計しなければならない。
● 応力集中
外力を受ける材料の断面に切欠きがある場合、応力はこの切欠点に集中される。ねじも谷径に切欠があるので応力集中を考慮して設計しなければならない。切欠きのない小さい断面と切欠部に生ずる応力の比を応力集中係数(切欠係数)と云う。

4. ねじの工作
● 旋盤によるねじ切り
主軸、親ねじ、換歯車、ねじ切りバイト、ハーフナットなどが主要素で、メートル、吋ねじの両方を工作できる。
● タップ・ダイスによるねじ切り
手作業で小径のねじ立てに用いられる。
● ダイヘッドチェーザーによるねじ切り
ダイスの刃を植えかえられるようにし、ねじを切り終わったら、その植え込んだ刃を開くようにしておけば、ダイスを抜くのに逆転させる手間がなくなる。そのようにしたものをダイヘッドと呼び、その植え刃をチェーザと云い、両方を合わせてダイヘッドチェーザと云い、旋盤等で使われている。刃は4個で1組になっているのが普通。
● ねじ研削法
高硬度材料に精密なねじを工作する場合に用いられる。と石は一山ねじと石または多山ねじと石を用いる。大別して次の方法がある。
(a)トラバース(長手送り)ねじ研削法
旋盤でねじを切削する場合と同様に工作物を回転しながら長手方向に親ねじで送りを与えるのが最も一般的な方法である。
(b)フランジカットねじ研削法
幅の広い多山ねじと石を用い、その幅より若干短いねじの研削を行う方法で、全ねじ山の高さをと石の切り込み1回で与え、工作物がねじ送りされながら1.5回転すると、研削が完了するので能率は良いが精度は一山と石に比べて若干劣る。
(c)心なしねじ研削法
心なし円筒研削法と同様な方式で、頭なしのねじを連続的に多量生産できる。
● ねじの転造
切り粉を出さずに、冷間(常温)塑性加工でねじをもみ出す方法をねじの転造という。この方法により加工されるのは一般におねじに限定されている。ねじを転造する機械をねじ転造盤という。
ねじの転造は19世紀初頭に考案され、1930年から実用化した。
転造する素材は、伸び率6〜8%以上なら、軟鋼、銅合金、軽合金等、引張強さ130kgf1mm2、硬さHRc35〜40程度の合金鋼まで加工が可能であり、直径1mm〜100mm程度まで、広範囲な加工ができる。
ねじ転造の原理は旋盤で行うナーリング作業(ローレット掛け)と同様である。ダイスには円ダイスと平ダイスがある。

5. ボールねじ
おねじとめねじの間にボールを入れ、すべり摩擦をころがり摩擦にして摩擦抵抗を少なくしたものである。駆動機構として多く使われる。
ボールはねじ溝に2点接点していて、ナットは普通のものと異なり、ねじ溝があり、両方の間をころがるボールが外に飛び出さぬよう、ボールを循環させるようになっている。ねじは焼き入れ、研削仕上げされている。
以上